買い手の信用を得るためには会社書類の整理が第一
引き続きデューデリジェンス(買収監査)について見ていきます。
デューデリジェンスのための準備としては、まず書類などの整理が第一です。何度も述べているように、会社の基本的な書類がきちんと保管・整理されていないようでは、買い手からの信用を得ることはできません。念のため、デューデリジェンスに必要な一般的な書類を確認しておきましょう。たくさんの書類がありますが、これも専門家が段取りして集めます。
【会社全体に関する書類】
会社の定款、会社概要、組織図、役員名簿、株主名簿、取引先名簿、社員名簿登記事項証明書(法人)、登記事項証明書(不動産)など
事業所・工場一覧(所在地・従業員数・事業内容・設備など)
【経理・財務に関する書類】
過去3年間の決算書と確定申告書、直近試算表、資金繰り表など
各種帳簿(現金出納帳・預金出納帳・手形帳・棚卸表・固定資産台帳など)
借入金返済予定表、リース資産支払台帳
【労務に関する書類】
人事関係規程(就業規則・給与規程・賞与規程・退職金規程・役員規程など)
【契約書など】
官公庁への届出書・申請書など
賃貸借契約書、債務保証契約書、保険証券など
こうした書類以外にも、先方が必要としている情報があれば、あらかじめ聞いて書類を整えておく必要があります。
また、こうした書類や設備などのチェックだけでなく、そこで働く従業員の様子を見たり、キーマンに直接話を聞くといったデューデリジェンスも行われています。社員の生の声を聞くことにより、その会社内部の日常的な雰囲気をつかむだけでなく、事業の進行具合やその事業部門の将来性などを感じ取ることができると考えられているからです。
最終契約書の競業避止条項、勧誘禁止条項等にも注意
デューデリジェンスが終わると、契約は最終段階に移ります。デューデリジェンスの内容次第では、基本合意で示された譲渡価格などの条件が修正されることがあり、最終契約書に反映されます。その他にも、最終契約書にはさまざまな細かい条件などが加えられます。中でも重要なのは、事業譲渡後に買い手が不利にならないために記載される事項です。
たとえば会社法には、売り手の経営者が事業譲渡後に同じ事業を行うことを禁じた「競業避止条項」という規定があります。
具体的には、事業譲渡した会社は、同一の市町村および隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は同一の事業を行ってはならない、というものです。また、この条項は特約を付した場合には、30年間まで延長することも可能とされています。このため最終契約書には、禁止する事業の定義や地域、期間などを明記することがあります。
これらの規定と並び、同条項では、地域や期間にかかわらず、譲渡会社が不正の競争の目的を持って同一の事業を行うことを禁じています。
この他にも、買い手が不利にならないために、「勧誘禁止条項」という規定があります。これは、事業譲渡されて新会社に移った従業員を、かつての経営者が勧誘して引き抜くことを一定期間禁じる条項です。前経営者と従業員との関係が緊密な場合、勧誘によって従業員が引き抜かれて人材不足に陥ってしまうリスクも考えられるため、このような条項を最終契約書に記載する場合があります。
このような条項は、買い手のリスク回避のためには必要とされるものですが、場合によっては売り手の経営者が新たに事業を計画する中で、足かせとなってしまう可能性もあります。売り手の経営者が将来的に再生を考えているとしたら、こうした条項に何らかの特約条項をつけるなど、専門家と検討してみる必要があるかもしれません。