前回に引き続き、「経営者保証に関するガイドライン」がテーマです。今回は、経営者保証ガイドラインによる債務整理の適用条件について見ていきます。

経営者にとって「破産」以外の新たな選択肢が誕生

経営者保証ガイドラインは導入されてから1年半ほどしか経過しておらず、認知度が低いためにまだまだ利用は広がっていません。金融庁のホームページによると、2014年2月から2015年3月までの1年間で、金融機関がメイン行となってガイドラインに基づく保証債務整理を成立させた件数は60件とされています。

 

しかし、従来会社が破産した場合に、会社債務を連帯保証していた経営者は、自らも破産をしてきたことを考えると、経営者にとっては、経営者保証ガイドラインというひとつの有力な選択肢が生まれたことになります。

 

経営者保証ガイドラインの最大のメリットは、金融機関との調整により、連帯保証債務の全部ないし一部の免除を受けることができる点にあります。しかも、一定の生活費などを残すことや華美でない自宅に住み続けることができる点も経営者にとって魅力です。

 

まだまだ実績が少なく、どのような場合にいくらの生活費などを残すことができるのか、華美でない自宅とはどのようなものか判然としないところがありますが、どんどん活用していく価値がある制度だと思います。

 

筆者が、負債総額2億円、年商約2億円の部品加工メーカーの廃業をお手伝いした際は、会社は特別清算で債務カットによる清算を果たし、会社債務を連帯保証していた経営者も、3社の金融機関を相手として、経営者保証ガイドラインを利用することによって大幅に債務をカットすることができました。加えて、経営者の手元にインセンティブ資産として現金300万円を残すことができました。

債権者であるすべての金融機関からの同意が必要

ここで、経営者保証ガイドラインによる債務整理の適用条件について整理します。

 

第一に、経営者保証ガイドラインの対象となる債権者は金融機関です。ガイドラインが生まれた経緯から見ても明らかですが、商取引債権者に対し、「経営者保証ガイドラインに従って債務整理する」と言っても相手にしてもらえません。

 

第二に、経営者保証ガイドラインによる債務整理は私的整理であり、すべての金融機関の同意があってはじめて成立します。「経営者保証ガイドラインのQ&A」によると、金融機関の同意を得られるのは、金融機関にとって、次のような意味で経済的合理性があると判断されるケースです。民事再生における清算価値保障の原則と同じ考え方です。

 

①会社が民事再生などの再建型手続をとって事業を再生させるケース破産の配当による金融機関の回収額よりも、将来的に事業によって獲得される収益による回収額の方が大きいと判断されれば、経済的合理性があると認められます。


②会社が破産・特別清算などの清算型手続をとって事業を廃業するケース会社の清算が遅延した場合の将来時点(最大3年程度)での金融機関の回収見込額よりも、現時点で回収できる金額の方が多いと判断されれば、経済的合理性が認められます。将来時点での金融機関の回収見込額をシミュレーションするのは難しい作業です。弁護士やサポートする税理士とよく相談してください。

 

③経営者個人が誠実であること会社の清算中またはその直前に、個人の財産の隠匿、親族・一部の取引先債権者に対する偏頗弁済など、金融機関にとって不誠実な行為がなされていないことです。
 

経営者保証ガイドラインに基づく債務整理は、すべての金融機関の同意を得なければなりませんので、金融機関との調整が必要不可欠です。

 

最終回で説明する特定調停の申立ての前段階で、経営者およびその代理人の弁護士は会社が債務整理に至った経緯、会社の財産状況や経営状況などを説明した上で、経営者の財産状況と弁済計画などを説明するなど金融機関と事前調整をします。

 

一方、金融機関も経営者保証ガイドラインに基づく債務整理について事前調整に応じてくれます。

 

ただし、金融機関との事前調整には予想外に時間がかかりますので注意してください。筆者が担当した案件も、株式会社の特別清算について開始から終結まで約1年間を要し、この1年間のうち後半の6か月くらいは、経営者保証ガイドラインによる金融機関との事前調整に費やしました。

本連載は、2015年8月26日刊行の書籍『赤字会社を驚くほど高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

山田 尚武

幻冬舎メディアコンサルティング

アベノミクスにより日本経済は回復基調にあるといわれるものの、中小企業の経営環境は厳しさを増しています。2013年度の国税庁調査によると、日本の法人約259万社のうち約7割にあたる176万社が赤字法人となっている一方で、経…

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