高度経済成長期に売上を伸ばした「成功体験」
前回説明したように、地場産業を取り巻く環境は極めて厳しい状況です。このような状況から抜け出そうと、あれこれと試行錯誤をしている企業がある一方で、何ら具体的な対策をとっていない企業も多く見られます。
その理由は、目の前の仕事をこなすことに精一杯である、新規事業を立ち上げたくてもそこに割ける人員がいない、資金に余裕がない、などさまざまありますが、そのほかに、過去の栄光をいまだに引きずって、現実から目を背け続けているという企業が少なからずあります。
ここでいう過去の栄光とは、高度経済成長期に順調に売上を伸ばしてきたという成功体験を指します。
かくいう私の会社も、私が社長になる前はまさに「古き悪しき地場産業」そのものでした。古くからつきあいのある代理店との馴れ合い、保守的で腰が重い役員たち、昨日までの業務を今日もこなすだけの現場……。
しかし、だからといって彼らが仕事に対して不真面目であるとは思いません。一人ひとりを見ていけば、確かに「少しでもいいものをお客様に届けたい」という情熱を感じます。彼らは日々の仕事に一生懸命ではあるのですが、やり方がよくないのです。
仕事の仕方が悪いから、利益が上がらない。利益が上がらないから、どんどん仕事をしなければいけない。そうして忙しくなると、本当にやらなければならない改革に手が回らないし、モチベーションも上がらないのです。
老舗企業ほど、根本的な「経営体質」の改革が難しい
確かに、日本のものづくりは世界トップレベルであると思います。しかし、先述の通り、今はいいものをつくったからといって売れる時代ではありません。現在の市場を正しく把握し、ターゲットを絞り、ターゲットにマッチしたプロモーションを行う。「届けるべき人に、届けるべき商品を、確実に届ける」企業でなければ生き残ることはできません。
それなのに、過去の栄光にとらわれている企業は、「いいものを愚直につくり続けていれば、お客さんは帰ってくる」と妄信し、現状を変えようとしないのです。
どんな会社であれ新しいことを始めるには膨大なエネルギーが必要です。ましてや、100年近くの歴史があり、これまでしっかりと業績を上げていたシステムが構築されてしまっている老舗企業となればなおさらです。
そうしたエネルギーを使うことなく、経営体質の改革ができないままに、今も多くの地場産業がその素晴らしい技術とともに市場から消え去っているのです。