前回は、木材の個性を生かして市場を開拓した、地場産業の力について取り上げました。今回は、「家具づくり」に適さないとされる針葉樹林を、地場産業として活用できるか見ていきます。

土地の92.5%を森林が占める「飛騨の山」

なぜ家具には節のある木材を使わないのか?

 

そんな疑問を抱いて「森のことば」を開発していた時期に、私はもうひとつ素朴な疑問から新しい家具をイメージしていました。

 

その疑問とは「なぜ飛騨にはこんなに山林が豊富にあるのに、そこに生えている国産のスギ材を使わないのか?」ということでした。

 

高山市をぐるりと取り囲む山林を眺めながら、その思いに取りつかれてしまったのです。

 

改めて振り返ると、私の会社は日本列島のほぼ真ん中に位置する岐阜県の北部、かつては「飛騨の国」と呼ばれた地域に位置しています。標高3000メートル、日本の屋根と呼ぶに相応しい峻峰が居並ぶ北アルプスと、清流に囲まれた盆地。土地に対して森林の占める割合は実に92.5%にも及びます。

 

つまり人々はごくわずかな平野部、あるいは勾配の緩い傾斜面に、額を寄せるようにして住んでいるに過ぎず、この地の主人公は山林であり、そこに生える樹木なのです。私の会社はその樹木を扱っている産業だからこそ、「地場産業」を名乗っているわけです。

 

[写真]木々が生い茂る飛騨の山

 

この地では7世紀にはすでに「飛驒の匠」と呼ばれる木工職人たちが現れ、都に上っては宮殿や寺院の建設に携わっていました。その歴史が示すように、森林に囲まれたこの地では、木造・木工技術が早くから発達していたのです。江戸時代には幕府の直轄地になった歴史を見ても、豊富な資源に恵まれた地だったことは間違いありません。

家具の材料として一般的なのは「広葉樹」だが・・・

それなのにこの地で木工家具を製作する「地場産業」である私の会社が、なぜ地域の木材を使わないのか? 素人の私にはそれが不思議で仕方なかったのです。

 

その頃私の会社で家具の材料として使っていたのは、アメリカから輸入した広葉樹ばかりでした。当時の常識では、木工家具の材料はナラ、タモ、ブナ、ウォールナットなどの広葉樹。目がつんでいて硬くて丈夫だからという理由です。逆にスギやヒノキなどの針葉樹は、比較的柔らかくキズつきやすくてへこみやすい。夏目と冬目の境や年輪の差が大きく、家具に用いられることは稀でした。

 

それでも、きっと針葉樹で立派な家具をつくることはできるはずだ。

 

ある日私は職人たちにそんな問いかけをしました。

 

周囲の山林を見渡すと、家具になるブナやナラといった広葉樹は戦後ほとんど伐ってしまって、広葉樹はあと100年くらいしないと使いものにならない状態です。その代わりに周囲の山林に植えられているのは、スギやヒノキといった針葉樹ばかりです。それは後述するように、国の政策として植えられたものでした。

 

「でもスギもヒノキも柔らかすぎて家具には使えません」

 

職人たちからは当然の答えが返ってきました。しかし、チャレンジする前から無理だと決め付けることは、私にはできません。まず、やってみようと職人を鼓舞し、製作をスタートしたのです。

 

なにしろスギやヒノキならば周囲に豊富にあって、輸入材に比べたら安価で手に入るのですから、経営者としては諦めきれません。当初は表面を硬くするコーティング技術を使おうとイメージしていました。

 

けれどそれではせっかくのスギの感触がなくなってしまって意味がないとわかりました。次にたまたま知り合った会社が、スギを圧縮してフローリングに使っているという情報が入りました。勇んで出かけてみると、これがいけそうなのです。

 

さっそく共同研究を始めたのですが、家具に使ってみると、圧縮の精度が高くなくてヒビが入ってしまう。フローリングならば多少ヒビが入っても問題はありませんが、家具では使えません。水をかけると圧縮が戻ってしまうこともわかるなど、問題だらけでした。

本連載は、2017年7月28日刊行の書籍『よみがえる飛騨の匠』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よみがえる飛騨の匠

よみがえる飛騨の匠

岡田 贊三

幻冬舎メディアコンサルティング

時代とともに移り変わる消費者ニーズの変化によって、崩壊の危機を迎えている地場産業。地場産業が生き残るためには「販売戦略」「製品開発」「生産体制」「後継者育成」「ブランディング」「地域プロモーション」の6つの改革…

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