前回は、針葉樹林の家具素材への利用について可能性を探った、著者の取り組みを紹介しました。今回は、スギを圧縮加工する新技術のヒントを得た経緯と、スギという木材の魅力を見ていきます。

スギの強度を高めるために不可欠な「圧縮技術」

前回の続きです。

 

とはいえ、目の前に国産材がこれだけあるのに使わない手はありません。「地場産業」を謳うなら、この製品開発は飛驒産業の将来の「肝」にもなり得ます。

 

とにかく、スギで家具をつくるには強く圧縮して強度を高めなければなりません。

 

「頑張ってなんとか使えるようにしよう」

 

私は挫けずに、以前から知り合いだった岐阜大学の棚橋光彦教授に相談しました。棚橋先生が以前から、木材の圧縮技術を研究されていたのを知っていたのです。

 

すると先生はこういいました。

 

「岡田社長のところには曲木の技術があるじゃないですか。あれは内側を圧縮して固定するから曲がっているのです。あの技術を表面に使えば、圧縮は可能なはずですよ」

 

この言葉は目からウロコでした。ずっと前から培ってきた曲木のノウハウが、新しい技術に活かせるかもしれないなんて!

 

私は天にも昇る思いで、棚橋先生との共同研究を提案しました。棚橋先生はその提案を受け入れてくださり、さっそく助手を私の会社に送り込んでくれました。

 

そして私の会社が森林組合・製材業者と立ち上げた飛騨杉研究開発協同組合が圧縮工程の研究の場所となりました。さらに家具に使えない木材や枝打ちされた枝葉などの森の恵をあますところなく活用するために、2013年には「きつつき森の研究所」を立ち上げました。

神社仏閣を建立する際の構造材として活用されたスギ

「クリプトメリア・ジャポニカ」

 

これはスギの学名で、”隠された日本の財産”という意味です。

 

現在では「花粉症」の元凶といわれて、春になると多くの人々から疎まれる存在ですが、日本にしか生育しないスギは、古くから日本人の生活に深く根ざし、〝財産〞とまでいわれているのです。

 

スギの植林が始まったのは室町時代といわれ、古人たちは神社仏閣を建立する際の構造材とするために植林を行い、用材の確保を図ってきました。

 

その木目は柾目(まさめ)が緻密によく通っており、日本人の美意識とも重なったのかもしれません。「真っ直ぐ」なだけではなく、屋久杉や吉野杉といった細くて美しいスギはとても珍重されてきました。そのほか優れた調湿機能や香りなどの特徴を活かして、住宅、船、桶など、現在に至るまでさまざまな場面で日本の暮らしと関わり続けています。

 

たとえば住環境を考えてみると、日本の伝統的な住宅は木材と紙でつくられ、その土地の風土・気候に合った過ごしやすい空間を提供しています。優れた保湿機能を持つ木材は、カビやダニの原因となる結露や湿気を住まいから追放しています。さらに木材のほのかな香りは、人をリラックスさせ、ストレスを癒し、安らぎを与えてくれます。

 

木材は味覚とも無縁ではありません。たとえば酒樽には酒に香りをつけるためにスギが、食品を入れる桶には軽くて水に強いことからサワラが用いられます。

 

造り酒屋では春になると軒先に新しいスギ玉が飾られますが、あれは冬から仕込んだ新酒ができあがったことを告げる習わしです。木材と食の強いつながりを示す風習です。

 

このように、スギには多くの魅力があり、日本人の暮らしにも馴染み深い。そして何より私の会社の周りを含め、日本には活用しきれていないスギが豊富にある。材質など、いくつかの問題さえクリアできればこうしたスギたちが文字通り〝財産〞になってくれるのです。

本連載は、2017年7月28日刊行の書籍『よみがえる飛騨の匠』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

よみがえる飛騨の匠

よみがえる飛騨の匠

岡田 贊三

幻冬舎メディアコンサルティング

時代とともに移り変わる消費者ニーズの変化によって、崩壊の危機を迎えている地場産業。地場産業が生き残るためには「販売戦略」「製品開発」「生産体制」「後継者育成」「ブランディング」「地域プロモーション」の6つの改革…

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