前回は、コア対象商品の商機のつかみ方を説明しました。今回は、地場産業の活路を拓いた「ふたつの意識改革」とは何かを見ていきます。

「圧倒的に速くなった時間感覚」「固定観念の消失」

「森のことば」のホームランを受け、私の会社に古くからあったふたつのことが崩れました。いい換えれば、非常識が常識になったといってもいい。

 

ひとつは時間の感覚が変わったこと。

 

これまで私の会社では、新しいものごとの始まりは「お盆が過ぎたら」「高山祭が終わったら」というような時間感覚でした。けれど「森のことば」以降、やると決まったら「今日から、今からやる」。時間感覚が圧倒的に速くなったのです。

 

もうひとつは固定観念がなくなったこと。

 

これは工場で働く若手を中心に広まったのですが、それまで会社内や業界で当たり前と思われていたことも見直していい、固定観念を取り外して見直せば、よりよい動きやアイデアにつながることもある、という意識改革が実践されるようになったのです。

 

これもまた私たちのような規模の企業にとっては大きなことでした。90年の伝統が、ある意味で改革の邪魔をしていた部分があったので、生まれ変わったといってもいいほどの出来事だったのです。

 

非常識と思っていたことが常識になった。そこから私の会社は大きく変わりました。私としては、これからがいよいよ本格的な社長業のスタートだという気持ちで、兜の緒を締め直しました。

「常識外れの戦略」が会社の未来を救う

ところが「森のことば」はあまりに売れたために、困ったことも引き起こしました。ひとつは節のある木材の確保が意外にも難しかったことです。

 

そもそも捨てられてしまう不良品在庫が多かったことから生み出されたシリーズでしたが、あまりに売れてくると「節のある材」の大量確保が必要となります。

 

ところが私たちが木材を輸入していたアメリカの製材現場では、これまでずっと節のない木(業界ではA級材と呼ばれる高価な木材)が求められていたため、節のある材は選別されて外されていたのです。

 

高値がつかないので製材しても商売にならないという理由もあったようです。それが、ある日から一転して「節のある木を集めてくれ」というオーダーがきたのですから、現場のスタッフたちは右往左往し、理由もわからず山奥まで材を取りにいかないと間に合わないという事態になったと聞きました。

 

おもしろかったのは、私の会社と30年もつきあいのあるアメリカ・バージニア州の製材所の社長が、わざわざ飛騨まで飛んできたことです。節のある木材がほしいなんていうもの好きな社長はどんなやつだろう、という興味本位で私の顔を見にきたというのです。

 

それほどこの業界では、節のある木材を使うのは常識外れだったのです。けれども、だからこそ「森のことば」はホームラン級の商品となったのです。

 

「これなら私も一組ほしいね」

 

私の会社で現物を見たバージニアの社長は、にっこり笑ってそういいました。私はそうした業界内の反応を見て、ここにこそ私たちのような地場産業に携わる企業の「生き残り戦略」があると確信したのです。

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    本連載は、2017年7月28日刊行の書籍『よみがえる飛騨の匠』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    よみがえる飛騨の匠

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    岡田 贊三

    幻冬舎メディアコンサルティング

    時代とともに移り変わる消費者ニーズの変化によって、崩壊の危機を迎えている地場産業。地場産業が生き残るためには「販売戦略」「製品開発」「生産体制」「後継者育成」「ブランディング」「地域プロモーション」の6つの改革…

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