取引内容の実態を正確に反映する「複式簿記」
ここでいう簿記の知識とは、複式簿記に関して十二分に理解していることを意味します。基本事項の確認になりますが、簿記には「単式簿記」と「複式簿記」の2種類があります。
単式簿記は現金の収支など基本的な取引内容だけを記録するものであり、その作業はいわば“おこづかい帳”をまとめるのとさほど変わりありません。
一方、複式簿記は取引を原因と結果の両方から二面的にとらえ、財産の計算と損益の計算を同時に行う記帳方法です。企業の取引内容の実態を最大限、正確に反映することを目的としたものであり、単式簿記に比べてはるかに複雑な仕組みとなっています。
一般的には複式簿記が広まったことによって、会計の正確性が担保されることになった結果、企業に対して銀行が安心してお金を貸し出せるようになり、また投資家が不安を抱かずに投資を行うことができるようになったと考えられています。
つまり、複式簿記の普及が、近代経済の発展の原動力となってきたのです。かの文豪・ゲーテは複式簿記の持つこのような高い意義と重要性を深く認識していたため、ワイマール公国(現在のドイツ・テューリンゲン州)で大臣を務めていた時に、領内の学校でその知識を学ぶことを義務づけたといわれています。
単式簿記まがいの経理処理では、正確性の検証も困難に
こうした歴史的経緯もあって、現代の企業会計では記帳を複式簿記で行うことが当然視されています。税制上も、青色申告において優遇税制が設けられているなど複式簿記が推奨されているのは周知のとおりです。
しかし、大企業以外では、複式簿記に対する理解が必ずしも十分に浸透しているとは言い難い状況があります。実際、中小企業の中には、経理担当者の知識やノウハウが不十分なため、表面的には複式簿記で記帳していながら、実質的には単式簿記で経理処理を行っているのと変わりないようなところも多々見られます。
これでは、当然、複式簿記本来の効果を発揮することができず、帳簿の中身の正確性を検証することも困難になります。このような不適切な状況を改善する役目を果たすためにも、経理部長には複式簿記を含めた経理・会計に関する専門的な知識が強く求められることになるのです。