今回は、債務超過の東芝に対し、銀行が格付けを「正常先」として融資を続けた理由を見ていきます。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。

「東芝が正常先で、なんでうちの格付けがココなの!?」

前回の続きです。

 

融資継続か否か、このところ、
東芝VS銀行団のバトルが過熱しています。
月末が近づくにつれ、この記事が増えてきます。
この交渉には、さまざまな駆け引きが渦巻いています。
その内容は、
中小企業においても、参考とすべきことが多いのです。

 

銀行交渉に強くなるには、
“銀行による格付け(スコアリング)を良くしなさい!”
と、言い続けています。
そのためには、
営業利益と自己資本比率を高くしなさい、と申しております。

 

東芝は、もはや債務超過です。
つまり、自己資本比率はマイナスなのです。
なのに、融資額が多いメイン4行の格付けは、次の通りです。
三井住友銀行(融資額1750億)=正常先
三菱東京UFJ(融資額1050億)=正常先
三井住友信託(融資額1250億)=正常先
みずほ銀行(融資額1750億)=要注意先

 

主要4行の内、3行が「正常先」です。
正常先とは、上場企業しか獲得できない、格付けのトップです。
上記の銀行から融資を受けているなら、
“債務超過の東芝が正常先で、自己資本比率〇%のうちは、
 どうして格付けがココなの?”
と、言ってやればよいのです。

メガバンクと地銀の「見えざる力関係」

なぜ、上記3行は今なお、格付けを「正常先」とするのか?
考えられる理由は大きく2点です。

 

①貸倒引当金を計上したくない。
②銀行団に入っている地銀等を、離したくない。

 

まず①です。
銀行は格付けに応じて、
貸倒引当金を販管費に損失計上する必要があります。
計上すれば当然、業績が悪化します。
銀行の自己資本比率にも、悪影響を及ぼします。
「正常先」なら、引当金は不要です。
「要注意先」なら、融資額の約5%が、貸倒引当金の目安です。
融資額が1750億なら、約88億の損失計上です。
そんなことは、したくないのです。

 

そして②です。
銀行団には、地銀など約75行が参加しています。
融資額はそれぞれ、10億前後~100億前後です。
メイン4行に比べたら、小さい額です。
が、各地銀にとっては、大きな額ですし、
地銀などの総額は、約5000億なのです。
これらの地銀が銀行団から脱退し、
これ以上の融資増額はしない、となれば、
その穴埋めは、メインの4行にかかってきます。
今でも重荷なのに、これ以上のリスクは負いたくないのです。

 

その地銀を引き留めるため、
メイン銀行は東芝の格付けを「正常先」として融資し、
“だから地銀も協力してくれよな。”と言いたいのです。
地銀はメガバンクに対して、どこか劣等感があります。
銀行団の中での、銀行同士の力関係を、巧みに利用しているのです。
逆に言えば、地銀はメインの動きを伺いながら意思決定しているのです。

 

そこへ、手のひらを返したメインが、みずほ銀行です。
みずほ銀行は2月下旬、東芝の格付けを、「要注意先」に落としました。
それを知った地銀が、ついに声を上げ始めたのです。

 

(続く)

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    本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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