法定決定事項を記載した分割契約を締結
前回解説した「事業譲渡」「新設分割」による別会社設立の進め方や効果に続き、今回は、会社分割の方法として「吸収分割」の進め方を見ていきましょう。
分割会社・承継会社が取締役会設置会社の場合には、取締役会の決議に基づき、取締役会非設置会社であれば取締役の決定に基づいて、法定決定事項を記載した分割契約を締結します。
法定決定事項の内容は以下の通りです。
①分割会社及び承継会社の商号・住所
②承継会社の承継資産等
③自己株式等の承継
④承継会社の交付する株式等の財産
⑤承継会社の新株予約権の交付等
⑥効力発生日
⑦承継会社株式の交付
各当事会社は、株主及び、債権者に対して、吸収分割に関する情報開示を行わなければなりません。具体的には、吸収分割契約の内容、分割対価の相当性に関する事項、分割会社及び承継会社のそれぞれにおける債務の履行の見込みに関する事項、相手方会社の計算書類の内容等を記載した書面または記録した電磁的記録を本店に備え置かなければなりません。
各当事会社の株主及び債権者は、備え置かれた書面・記録について閲覧請求及び謄本抄本交付請求を行うことができます。さらに、分割契約所定の効力発生日の前日までに、各当事会社の株主総会において特別決議により吸収分割契約の承認を行います。
吸収分割に反対する各当事会社の少数株主には、株式買取請求権が認められています。なお、各当事会社は、所定の債権者に対して異議を述べる機会を与えるなど債権者保護手続きを行わなければなりません。最終的には、吸収分割契約所定の吸収分割の効力発生日に分割の効力が生じます。
分割会社及び承継会社は、分割の効力発生日後遅滞なく、承継会社が承継した権利義務及びその他の重要な事項を記載した書面または記録した電磁的記録を作成し、効力発生後6か月間、本店に備え置かなければなりません。株主、債権者およびその他の利害関係人は、備え置かれた書面または電磁的記録について閲覧請求と謄本抄本交付請求を行うことができます。
分割後にも債権者を保護する制度がある
なお、新設分割、吸収分割それぞれについて、分割の効果が発生した後でも、債権者の保護を図った以下のような制度が用意されているので注意が必要です。
【新設分割の場合】
①新設分割後に分割会社に債務の履行を請求できない債権者であって、分割に異議を述べた債権者には、分割会社が弁済または担保の設定もしくは信託の設定をしなければなりません。
②分割会社の債権者であって各別の催告を受けなかった者は、新設分割計画において分割後に分割会社に債務の履行を請求できないと定められているときであっても、分割会社に対して分割会社が新設分割効力発生日に有していた財産の価額を限度として債務の履行を請求できます。
③分割会社の債権者であって各別の催告を受けなかった者は、新設分割計画において分割後に設立会社に債務の履行を請求できないと定められているときであっても、設立会社に対して承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できます。
【吸収分割の場合】
①吸収分割について異議を申述した債権者には、それぞれの会社が弁済または担保の設定もしくは信託の設定をしなければなりません。
②分割会社の債権者であって各別の催告を受けなかった者は、吸収分割契約において吸収分割後に分割会社に債務の履行を請求できないと定められていても、分割会社に対して分割会社が吸収分割の効力発生日に有していた財産の価額を限度として債務の履行を請求できます。
③分割会社の債権者であって各別の催告を受けなかった者は、吸収分割契約において吸収分割後に承継会社に債務の履行を請求できないと定められていても、承継会社に対して承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できます。