前回は、自己破産の法的な意味でのデメリットが少ない理由と、事業再生におけるパートナー選びの重要性について見てきました。今回は、事業の再建に成功した赤字企業を任された経営者の役割を見ていきます。

過去の「過ち」を繰り返さないことが求められる

事業を再生することに成功したとしても、そこで安心しているわけにはいきません。新たに設立した会社の経営を安定させたうえで、そこからさらに成長していくことが、後継者の大事な仕事として残されています。

 

そのためには、何よりも過去の経営者の過ちを繰り返さないことが重要となるのはいうまでもないでしょう。整理した会社を教訓にして、新たな会社の経営に活かす――そのような後ろをしっかりと振り返りながら前に向かっていく姿勢が後継者には求められるのです。

 

私自身も、現会社スペースのスタート時から、Y不動産と同じ轍を踏まないことを何よりも一番に心がけてきました。

 

そもそも、Y不動産が破綻の危機に瀕したのは、経営資源のほとんどをマンション分譲事業に傾けすぎたことが原因でした。

 

不動産分譲事業は、銀行から借り入れた資金で土地を購入し、建物を建てて分譲しキャピタルゲインを得るというビジネスモデルによって成り立っています。このビジネスモデルの大きな問題点は、成功すればリターンは大きいが、失敗すればリスクが小さくないこと、とりわけ資金力の乏しい中小企業が手がけると、ハイリスク・ハイリターンな投機的事業になりがちなことです。

 

すなわち、不動産市場が活況を呈しているときには黙っていても次々と物件が売れるので資金は回転していき、売上も右肩上がりで伸びていきますが、市場がいったん冷え込むと在庫がさばききれず、とたんに資金繰りに窮することになります。

 

Y不動産もその例外ではありませんでした。最盛期には北は札幌から南は福岡まで全国的に事業展開し、さらにはアメリカ、ロサンゼルスへの投資や、ハワイでの土地の購入、グアムでの建て売りなど、国内のみならず海外にまで市場を拡大していました。

 

しかし、バブルの崩壊によってマンションが全く売れなくなると、巨額の負債を返済するために、資産を次々と切り売りし、地方の支店を閉鎖して、従業員の数を半分に減らす大リストラを行っても事態を打開することができず、最後には抜本的な事業再生の道を選ばざるを得なくなったわけです。

微々たる収益しか上げていなかった部門が「命綱」

このように会社を危急存亡の事態に導く原因となった過去のビジネスモデルに対する反省から、私は、これまでの連載で述べてきたように賃貸管理部門を中心として経営を立て直すことを決意したのです。

 

賃貸管理部門は祖父がY不動産を創業していた頃からありましたが、バブル期には、分譲部門に比べると、もたらされる収益は微々たるものでした。アメリカの大リーグでたとえると、分譲部門がメジャーリーグだとすれば、賃貸管理部門はいわば3Aのような存在だったかもしれません。しかし、3Aだった賃貸管理部門があったおかげで、わずかながらも収益をあげることができ、そこを核に別会社を使った事業再生スキームを実行することが可能となったのです。

 

一方、他の多くの不動産分譲会社は、そうした“命綱”をもたなかったために会社を維持することができず、そのほとんどが消え去ることを余儀なくされました。

 

分譲事業は、これまで述べてきたように市況に大きく左右される投機的な要素が強く、しかも構造的に借入金に依存せざるを得ません。人口が減少し、不動産市場の縮小が進み、先行きが見えない今の時代に、必要以上に借金を抱えることは中小規模の不動産業者にとっては経営の大きな足かせ、重荷となるでしょう。

 

それに対して、賃貸管理業を主軸とすれば借金をする必要はなく、時代、環境の変化を見据えて、賃貸人や賃借人のニーズを確実にとらえたビジネス戦略を策定し実行することにより、安定したキャッシュフローを得ることが可能となります。

 

実際、現会社、スペースは黒字経営を続けており、2007年と2012年には地元、東京・中野区の税務署から「優良申告法人」の表敬も受けています。

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    本連載は、2014年10月25日刊行の書籍『引き継いだ赤字企業を別会社を使って再生する方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    引き継いだ赤字企業を 別会社を使って再生する方法

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    高山 義章

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