取締役会の有無によって事業譲渡の手続きは異なる
別会社を設立する方法としては、事業譲渡、新設分割、吸収分割の三つがあります。今回は、二つの方法について解説します。
最初は、事業譲渡の進め方から見ていきましょう。事業譲渡については、事業を譲り渡す会社(元の会社)、譲り受ける会社(別会社)双方において、会社法で定められている手続きを行わなければなりません。
また、事業譲渡で求められる手続きは、第一に取締役会が設けられているか否かによって異なります。すなわち、取締役会の設けられている会社(取締役会設置会社)の場合には、事業譲渡を行うために取締役会決議が必要となります。
さらに、株主保護の観点から、原則として株主総会の承認を受けることが義務づけられています。この承認決議は、特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席して、3分の2以上の賛成があること)によることが求められています。
一方、事業を譲り受ける会社のほうでも、取締役会設置会社の場合には、取締役会決議が必要です。さらに事業の全部を譲り受ける場合には、原則として株主総会の承認を要します。この承認決議についても特別決議が必要とされています。事業を譲渡する会社、譲り受ける会社いずれにおいても、株主総会決議に反対した株主には株式を買い取るよう求める権利(株式買取請求権)が認められます。
余談ですが、私どもが、営業権譲渡のためにこれらの特別決議を行おうとした際に、債権者の中である信託銀行だけは、株主総会で反対する姿勢を示してきました。そこで、総会当日は、弁護士、公認会計士に別室に待機してもらい、株主から何らかの質問や異議があればすぐに対応できるような態勢を整えました。しかし結局のところ、全く質問はなく、総会で反対したのもその信託銀行のみだったため、問題なく決議が行われ、無事に営業権譲渡が認められる運びとなったのです。
新設分割では「分割計画」を作成する
続いて新設分割の進め方について説明です。まず、分割会社が取締役会設置会社の場合には、取締役会の決議に基づき、取締役会非設置会社(取締役会のない会社)の場合には、取締役の決定に基づいて、法定決定事項を記載した分割計画を作成します。
法定決定事項の内容は以下の通りです。
①設立会社の目的・商号等
②その他定款で定める事項
③設立時取締役
④設立時のその他役員等
⑤承継される資産等
⑥新設会社の交付する株式等
⑦新設会社の新株予約権の交付等・新設会社株式の交付
また、分割会社は、株主および債権者に対して新設分割に関する情報開示を行わなければなりません。具体的には、新設分割計画の内容、分割対価の相当性に関する事項、分割会社及び設立会社のそれぞれにおける債務の履行の見込みに関する事項等を記載した書面または記録した電磁的記録を本店に備え置かなければなりません。
分割会社の株主及び債権者は、備え置かれた書面または電磁的記録について閲覧請求及び謄本抄本交付請求を行うことができます。さらに、分割会社の株主総会において、特別決議により新設分割計画の承認を行います。事業譲渡と同様、分割に反対する少数株主には株式買取請求権が認められています。
なお、分割会社は、所定の債権者に対して異議を述べる機会を与えるなど債権者保護手続きを行わなければなりません。最終的には、設立会社の本店所在地において設立の登記がなされた時に分割の効力が生じます。
分割会社及び設立会社は、新設分割の効力発生日後遅滞なく、設立会社が承継した権利義務及びその他の重要な事項を記載した書面または記録した電磁的記録を作成し、効力発生日後6か月間、本店に備え置かなければなりません。株主、債権者およびその他の利害関係人は、備え置かれた書面または電磁的記録について閲覧請求と謄本抄本交付請求を行うことができます。