対象者にどんなことができるようになって欲しいか?
前回の続きです。
先述したようにいざ「人材教育」だということになれば、IDの考え方が極めて有効なので、話を進めてまいりましょう。
IDは、入口「対象者の現状」と出口「パフォーマンスゴール(どんなことができるようになって欲しいか)」を明確にすることからスタートします。入口と出口を明確にした上で、その間にあるギャップを埋めるための教育戦略を考えます。
入口である「対象者の現状」を分析した際に、明らかにレベルが異なるグループ・社員が混在しているようであれば、各々のレベルにマッチした教育戦略を組み立てていく必要があります。
出口とは、対象者にどんなことができるようになって欲しいかという「パフォーマンスゴール」です。
教育戦略は、どんなやり方で(それは、集合研修が向いているのか、それとも自宅での自己学習が向いているのか、職場での支援をどうするのか、何を組み合わせたらいいのかなど)実施することがベストかといったように具体的に考えていきます。
実は、入口・出口を考えずに、安易に研修という手段のみから戦略を考え始めてしまう人材教育担当者の方は少なくありません。方略という、枝葉の部分ばかりに注力しても、ターゲットが定まっておらず(入口が曖昧)、ゴールイメージが持てていなければ(出口が不透明)、その研修は奏功しません。以下では、より詳しく「ゴール」「現状」「教育戦略」の順でご説明していきます。
ゴールは「5種類」に分けられる
研修のデザインは、「対象者の現状」と「パフォーマンスゴール」を明確にすることからスタートしますとお伝えしました。
では、「パフォーマンスゴール」とは何でしょうか?また、他にどんなゴールの種類があるのでしょうか。
まず、ゴールを明確化することから始めましょう。ゴールは、大きく5種類に分けられます(図表)。「対象者の現状」をスタートとすると、①から順に達成していくイメージです。
[図表]5つのゴール
①(対象者の研修における)トレーニングゴール
研修を受けた後のゴール。「対象者の現状」から「研修」によって導くのが、「(対象者の研修における)トレーニングゴール」です。
例:設定されたシーンで製品説明ができる(用意された評価シートで採点)。
②(対象者の職場学習における)ラーニングゴール
職場学習をした後のゴール。「(対象者の研修における)トレーニングゴール」から「職場学習」によって導くのが「(対象者の職場学習における)ラーニングゴール」です。職場学習は、チーム勉強会やロールプレイ練習など、研修で学んだことを実践の場で活かせるようにするためのものです。研修の時間は限りがあるため、職場に戻って、練習を積むことが必要とされる場合は少なくありません。
例:上司や同僚を相手に、学んだ知識やスキルをアウトプットできる。
③(対象者のリアルワールドでの)パフォーマンスゴール
本書で最も重要視しているのが、このゴール。実際に“行動”として出せることを目指すのです。リアルワールドで実践をした後のゴール。「(対象者の職場学習における)ラーニングゴール」から「OJT(実践学習)」によって導くのが「(対象者のリアルワールドでの)パフォーマンスゴール」です。本書では、リアルワールドとは、成果を発揮すべき実践の場のことを意味します。OJTは、例えば営業であれば、顧客先で直属上司に同行OJTをしてもらい、コーチングを受けるなどリアルワールドでの学習です。ここでのリアルワールドとは、社外など外部の人とつながる現場のことをさしますが、内勤の方にとってのリアルワールドとは、チーム外の社内顧客と考えてください。研修実施後数カ月〜半年くらいのスパンで見ます。
例:お客様と製品についてディスカッションができる。
④ビジネスゴール(顧客面)
顧客満足度など、お客様やクライアントから見たゴール。対象者全員が「(対象者のリアルワールドでの)パフォーマンスゴール」に到達できれば、「ビジネスゴール(顧客面)」の達成に近づきます。
例:お客様からのクレームが10%減。顧客満足度アンケートでポイント10%アップ。
⑤ビジネスゴール(財務面)
売り上げアップなど、会社の財務面に寄与するゴール。対象者全員が「ビジネスゴール(顧客面)」に到達できれば、企業の「ビジネスゴール(財務面)」の達成に近づきます。通常は、6カ月から1年のスパンで見ます。
例:担当エリアでの売上10%アップ。