前回は、人材教育において重要な「入口と出口の明確化」を取り上げました。今回は、人材教育で目指すべき「パフォーマンスゴール」について見ていきます。

「ビジネスゴール」第一になっていないか?

前回の続きです。

 

人材教育においては、どのゴールを目指したらよいのでしょうか。

 

ビジネスにおいて人材が「育つ」とは、「業績向上につながる行動をおこせるようになること」。つまり、企業内教育では、個人である対象者を、研修から職場、職場からリアルワールドと、より実践に向けて成長させ、業績につなげていくプロセスを設計する必要があります。では、人材教育は「ビジネスゴール」の達成だけを目指せばよいのでしょうか。

 

答えは「ノー」です。もちろん「ビジネスゴール」を念頭に置く必要はありますが、私は、本書において、人材教育で目指すべきは「パフォーマンスゴール」であると考えています。その理由は、「ビジネスゴール」は、人材教育以外のさまざまな要因(経営方針や競合状況など)によってもたらされることが多いからです(図表1)。

 

[図表1]ビジネスゴール到達に関わる様々な要因

したがって、IDerやトレーナーは、対象者が「パフォーマンスゴール」に到達できるように人材教育を組み立てなくてはなりません。「トレーニングゴール」から「パフォーマンスゴール」に導くためには、対象者の直属上司やチームメンバーの協力が必要ですので、彼らの協力を得ることも含めて教育戦略を設計していくということです。

トレーナーに求められる「行動チェックリスト」とは?

「パフォーマンスゴール」にこだわって人材教育をデザインするには、具体的にどうすればよいのでしょうか。

 

私は、「行動チェックリスト」を作成することを推奨しています。行動チェックリストとは、受講対象者がどんな行動ができれば、現場で成果を出せるかを整理したリストのことです。「コンピテンシー」という言葉の方がしっくりくる方は、コンピテンシーだと思ってください(コンピテンシーとは、「能力」や「適格性」などを意味するビジネス用語。高い成果を挙げる人の行動特性、行動のフレームワークなどを意味します)。

 

チェックリストを作成するにあたっては、研修チーム内や現場の上司を巻き込んで、付せん紙を使いKJ法(※)で整理したり、現場で成果を出している人の行動を分解したり、現場にヒアリングしたりするとよいでしょう。

 

付せん紙ワークは、上司や同僚がそれぞれ「現場で成果を出している人の行動」を考え、付せん紙に書いて貼っていきます。出てきた項目をカテゴリー分けし、タイトルをつけて整理していくのです。

 

※文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した発想法。ブレインストーミングなどで思いついたことや調査で得られた情報などをカードに記すことから始め、類似のカードについてグループ分けとタイトルづけを行い、グループ間の論理的な関連性を見出し、発想や意見、情報の集約化・統合化を行う。

 

図表2は、トレーナーに求められる行動チェックリストの例を示したものです。これはイメージしていただくために簡易版として示したものですが、5段階評価の部分はさらに、具体的に何ができていれば3なのか、5なのかを洗い出していき、「ルーブリック」と呼ばれる評価一覧表を作成するのが理想的です。たたき台のVer.1と捉えてください。

 

[図表2]トレーナー行動チェックリスト《簡易版》

たくさん出された項目をブレークダウンするには、ロジカルシンキングが必要になります。論理的な整理があまり得意でない方は、チームメンバーを巻き込んで協力してもらうとよいでしょう。

 

1テーマにおいて、10項目ほどのチェック項目を作っていきます。対象者が、この「行動チェックリスト」に挙げられた行動ができるようになれば、「パフォーマンスゴール」に到達できるということになるのです。

魔法の人材教育

魔法の人材教育

森田 晃子

幻冬舎メディアコンサルティング

社員が思うように育たない――そう嘆く人材教育担当者の声をしばしば耳にします。たとえば、多くの企業では階層別研修などの「企業内研修」を実施していますが、これらの研修は厳密な効果測定が難しいうえに、受講者からは「知…

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