(※写真はイメージです/PIXTA)

10月から、各都道府県で最低賃金の大幅引き上げが実施されます。過去最大の上げ幅で、全国平均は1,004円に達する予定です。そんななか、中小企業を悩ませているのが、深刻な人手不足です。業績が伴わない中での「賃上げムード」に、多くの中小企業がさらに悩まされることが予想されます。本稿では、社員数50名の新聞販売店を23年間経営した経験を持ち、多くの企業の経営支援に携わる米澤晋也氏が、安易な賃上げが生むリスクや、今の時代に最適な「賃金システム」について解説します。

目標を自分事にする秘訣は「稼ぎ倍率」にあり

賃上げ額から目標売上総利益を算出するためには、次の2つの指標が必要になります。

 

1.労働分配率

2.稼ぎ倍率

 

分かりやすい例として、売上総利益が1億円、総額人件費が5,000万円のモデルで説明します。労働分配率とは、売上総利益に占める総額人件費の割合を指します。モデルでは50%です。稼ぎ倍率とは、総額人件費の何倍、売上総利益を稼いでいるかを指します。モデルでは2.0倍です。

 

このモデルで、仮に賃上げ目標を10%に、つまり5,000万円を5,500万円にするという目標を立てたとします。すると、売上総利益の目標は「5,500万円×2.0」で1億1,000万円になります。

 

この目標が達成されれば、売上総利益は前期に比べ1,000万円増えます。これを社員と会社で分配します。分配法に絶対的なルールはありませんが、労働分配率を基にするのが最も納得度が高いと考えています。モデルでは、1,000万円×50%=500万円が社員、残り500万円を会社が受け取ります。

 

ただし、分配率は借入金の返済計画や、投資計画、繰越利益の状態などを考慮して変えることもあり、企業によって様々です。

重要なのは短期利益を追求しない、部分最適に陥らない

この制度を用いる際には、重要な注意点が2つあります。1つは、短期利益を追求しないことです。目先の利益を追求すると、数値目標を社員に押しつけ、煽るようになりがちです。

 

今は以前のような人口増加時代ではありませんし、生活者は一通りのモノを手にしています。煽って行動させて結果が出るような時代ではないのです。

 

現代は成熟社会です。よく、「何を買うか? よりも誰から買うか? という時代になった」と言われますが、顧客や地域社会との関係性を、時間をかけて丁寧に醸成することが繁栄の王道です。業績は、信頼関係を積み重ねた「結果」として訪れるものなのです。

 

数字で社員を煽ると、顧客に嫌がられる売り方をしたり、不正を働いてでも売ろうとして「信頼」という重要な資産を失うことになりかねませんので、注意が必要です。

 

注意点の2つ目は、部分最適に陥らないような経営をすることです。そのためには、もし、過度なインセンティブ(成功報酬)や成果主義があれば、すぐにでも見直す必要があります。

 

インセンティブや成果主義が行き過ぎると、社員は会社全体の売上総利益よりも、自分の成績とインセンティブに意識が奪われます(部分最適に陥る)。職場内や顧客との関係性づくりといった、時間がかかることもしたがらなくなります。

 

1人1人のパワーのベクトルが分散し、結果的に、社員も会社も顧客も、誰も得をしないという悲劇を招いてしまいます。1人1人の意識を、全体の売上総利益の創出に集中させ、共創、協働する「全体最適」が欠かせません。

 

業績連動型の賃金システムは、長期視点と全体最適を重視する文化のもとで機能するものです。

 

私の経営支援先企業では、100万円を超える賞与を支給したり、5万円の昇給を実施した企業があります。いずれも長期視点と全体最適化を礎に、安定的に成長しているところばかりです。

 

賃上げムードの高まりは、これからが本番です。是非、本記事で紹介した制度を参考に、賃金問題を、組織一体化のチャンスに変えていただければ幸いです。

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