前回に引き続き、世界トップシェアに上り詰めた、小さな工場の「開発の歴史」を見ていきましょう。

「日本初の商品を作る」という意識が根付く

前回の続きです。

 

やがて2年後の1957年(昭和32年)。日本で初めてシリコーン樹脂をベースとする耐熱塗料の量産化に成功。新しい機能性塗料は生まれた名張にちなんで、その地が詠まれる万葉集の中にある名張の枕詞「沖津藻」から「おきつも」と命名しました。

 

この地に生まれた誇りと、この地で生きる「苦境」をバネに、技術とアイデアで生きていくという姿勢は、この画期的な商品とともに私の会社に宿ったのです。日本で初である商品の開発、他の追随を許さない技術力、そしてそれを商品化するアイデアといったものが私の会社の「核」になったのは、この時からでした。

 

こうして生まれた耐熱塗料「おきつも」は、当時唯一の暖房設備であった鋳物ストーブにターゲットを定めた営業活動とともに、全国に広がっていきました。

 

初採用は桑名市の中部工機株式会社(現・中部コーポレーション株式会社)、株式会社北勢鋳造所が製造していた鋳物ストーブでした。それ以降も石炭ストーブの化粧用塗料をメインに、ガスコンロ、石油コンロ、風呂の焚口等、高熱の発生する部分の塗料に用途を広げていきました。

 

[図表1]おきつもが採用されたストーブ

 

カラーバリエーションは黒色、赤茶色、ねずみ色、暗緑色、銀色の5色。現在はロケットの発射台にも使用されています。

 

[図表2]ロケット発射台

@JAXA
@JAXA

「ユーザーとともに歩む」という姿勢が成功へ導いた

発売時の価格は、200グラム150円。当時「太陽族」という流行語を生み出した映画「太陽の季節」の成人の入場料と同じ価格であり、その性能と低価格から、大きな反響を生んだと記録されています。

 

翌1958年には、市販されていた太陽熱温水器に塗装する「水槽用塗料」の開発にも成功。この塗料は太陽熱の吸収効率をあげ、温水器の耐用年数を延ばす目的で開発された商品で、「ユーザーとともに歩む」という私の会社の姿勢が商品開発を成功に導いた一例となりました。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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