前回は、経営者に新しい分野への挑戦を決意させた、ある技術部社員とのエピソードを紹介しました。今回は、世界トップシェアに上り詰めた小さな工場の、「開発の歴史」について見ていきましょう。

役職や部署を飛び越えた「研究風土」

岩本と川合の公式ではないチャレンジのような、役職や部署を飛び越えた研究風土は、いまに始まったことではありません。

 

私の会社の歴史は、そのまま斬新な商品、驚くべき機能を持つ商品、取引先に安心安全を与え続ける持続可能性の高い商品の「開発」の歴史なのです。

継続される「新しい素材」の研究開発

その端緒といっていいのは、創業から10年後の1955年(昭和30年)です。

 

「もはや戦後ではない」という経済企業庁の白書の言葉に象徴される「成長の時代」に、フタル酸樹脂系塗料「フタールシック」の開発に成功しました。郵便ポスト用の塗料として販売を開始しました。郵便自転車用のラッカー塗料もあわせて、全国の郵便局に積極的にPR活動を行っています。

 

同年には塩化ビニール接着剤の開発、商品化成功。改良を繰り返して、各地方の水道局にあわせた各種用途の分類をするに至りました。

 

同時にこの頃、「魔法の砂」と呼ばれたシリコーン樹脂が熱に強いことに着目。新しい機能を持つ塗料が生まれる可能性を見逃さずに、商品化に向けての研究開発が始まっています。ここがその後に展開される耐熱塗料への方向転換のポイントであり、技術イノベーションの原点でした。

 

とはいえこの頃は、創業者の重治がドラム缶に竹の棒を突っ込み、素材の配合をあれこれ模索しながら混ぜ、手づくりで試作を繰り返す日々。現在のような高い精度の温度制御装置もなく、電気コンロに塗装試験板をのせ、水銀温度計をあてながら測定するという状態でした。

 

この頃の苦労はもはや知る由もありませんが、研究者は重治一人。それを補佐していたのはのちに「耐熱塗料」を確立することになる泉岡登美男(のちの3代目社長)一人でした。重治は自分で開発し、営業にまわり取引先に配達し、さらにそこで新しい塗料の注文を受けて社に戻って研究開発するという、文字通り八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍だったと聞きます。

 

[図表]商品開発年表

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

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