目的と条件によって最適なスキームを決定する
売却スキームを選ぶにあたっては、検討すべき事項として、次のようなポイントが挙げられます。どのポイントを重要視するかによって、おのずと「株式譲渡」か「事業譲渡」かが決まってきます。
①売却によるキャッシュフロー
②事務コスト
③売却範囲
④未知の問題点の引き継ぎリスク
⑤売り手への課税関係
⑥従業員の雇用
⑦その他
譲渡範囲を限定しなければ基本的に株式譲渡を選択
①から⑦のそれぞれについて見ていきます。
①売却によるキャッシュフロー
譲渡の対価ですが、通常株式譲渡では譲渡金は社長個人の収入となります。一方事業譲渡の場合は法人に譲渡金が支払われます。その場合、社長個人の収入とするには譲渡金が法人に支払われた後の処理の仕方を考えなくてはなりません。一般的な方法としては、退職金、役員報酬、株式配当などにより、社長個人に回収する方法があります。
②事務コスト
株式譲渡では基本的に許認可ごと引き継がれるので、特別な手続きは要らず、事務コストはかかりません。一方、事業譲渡では事業を引き継ぐのが別の法人になるため、買い手側の法人で改めて申請して許認可を得る必要があります。そのため、手続きが煩雑になり事務コストがかかります。
③売却範囲
「事業の一部を残したい」「黒字部分だけを売りたい」など、譲渡の範囲を限定したいときは必然的に事業譲渡を選択することになります。譲渡範囲を限定しないのであれば、基本的には株式譲渡を選択します。
④未知の問題点の引き継ぎリスク
譲渡後にリスクが発生した場合、株式譲渡ではそれらも一緒に買い手側に引き継がれます。リスク予測が付く場合は、譲渡前のデューデリジェンスで公開し、トラブルになったとき、どちらが負担するかを話し合っておきます。リスクに気づきながら黙っていると、後で賠償責任を問われることがあるからです。事業譲渡では債権・債務をそれぞれ個別に譲渡するので、リスクがあるものについては買い手側から拒否される場合があります。
⑤売り手への課税関係
株式譲渡では個人に譲渡税の課税が発生します。事業譲渡では会社に法人税、消費税が課税されます。
⑥従業員の雇用
株式譲渡では、従業員の給与・勤務体系は基本的に引き継がれます。組織再編後の変化に対する負担感は少ないでしょう。一方、事業譲渡では雇用契約が途切れます。譲渡後に再雇用をしてもらえるかどうかは、交渉の段階で買い手側と話し合う必要があります。
⑦その他
法人名や屋号を残すことを譲渡条件として提示することは可能です。株式譲渡ならばそのまま残りますが、事業所譲渡の場合は法人名を残すことは難しいといえます。