代々の経営者に求められる地域社会への貢献
前回の連載では、ファミリービジネスと地域社会には、雇用、顧客、原材料等の多様な相互依存関係があることをお話しました。
先代世代からの地域社会との関わりを継承しつつ、後継者は何を地域社会に残していくのでしょうか。『地域創生イノベーション:企業家精神で地域の活性化に挑む』(忽那憲治・山田幸三編、中央経済社)では、事業承継を通じた地域社会との関わりについて考察するための様々な企業事例が紹介されています。
地域社会に根ざしたファミリービジネスは、地域社会からヒト(地域住民)、モノ(原材料)、カネ(地域金融)、情報(地域ブランド・伝統技術等)といった経営資源を依存するだけではありません。次の世代が地域に依存していけるように、地域の活性化に貢献して行く必要があります。
例えば、地域の経営資源を活用して、当該企業でしか提供できない技術や製品サービスを提供するオンリーワン企業になるようなケースがあげられます。地域のオンリーワン企業として顧客からの認知度が高まれば、企業の収益性が高められ納税額を増加させることに繋がります。
事業承継の観点から考えれば、後継者は先代世代において構築されたオンリーワン企業としての使命を受け継ぎつつ、時代や経営環境の変化に応じたイノベーションをおこすことが求められているといえます。結果として、地域社会への貢献だけではなく、新たな時代に求められる地域創生の役割が、地域に根ざすファミリービジネスの後継者には代々求められていると言えるでしょう。
技術や製品サービスの世界発信が地域を活性化させる
上述の後継者による地域社会への貢献は、地域の利害関係者だけに限られるだけではありません。日本人で初めてフェラーリのデザインを手がけた奥山清行氏の著作では、氏の地元山形の職人の技術による製品が地域を越えて世界に展開されている事例が紹介されています。
地域社会で培われてきた技術や製品サービスが、日本を飛び越えて世界に発信されることで、国外の新市場開拓に繋がり、地域のブランドが内外に形成されることに繋がります。このことは、海外からの受注増加という直接効果と地域ブランドの浸透による購買増加という間接効果の両方を期待することができ、先述の通り結果として地域を潤すことに繋がります。
この事例は、地域社会に根ざすファミリービジネスの後継者がイノベーションをおこす際の一つの示唆を与えてくれます。
忽那・山田編(2016)でも述べられているように、人口の大都市圏への集中が続く中、地域企業には地域を活性化させる中心的な役割(新市場開拓等のイノベーションの担い手としての役割)を果たしていくことが求められているといえるでしょう。
[図表]事業承継を通じた地域社会との新たな関係
地域社会とウィンウィンの関係を構築できるか?
前回と今回にわたり、事業承継における地域社会との関わりについて考えてきました。地域社会とは、ファミリービジネスにとって次の時代を担う後継者たちの情操を育み事業経営に必要な資源を提供してくれる、重要な利害関係者です。加えて、後継者がイノベーションの源泉となる企業家活動を行うにあたっての指針を与えてくれる存在であるといえます。
今後の日本の地域活性化を考えるにあたっては、地域に根ざすファミリービジネスの事業承継に着眼することでヒントを得られる可能性があります。後継世代による企業家活動をいかに促し、地域社会とのウィンウィンの関係をいかに設計・構築していくかが、重要な課題となってくるといえるでしょう。
<参考文献>
忽那憲治・山田幸三編(2016)『地域創生イノベーション:企業家精神で地域の活性化に挑む』中央経済社.
落合康裕(2015)「老舗企業における事業承継と世代間行動の連鎖性-福島・大和川酒造店における事例研究-」『事業承継』Vol. 4, 64-79頁.
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.
奥山清行(2007)『伝統の逆襲:日本の技が世界ブランドになる日』祥伝社.
奥山清行(2007)『フェラーリと鉄瓶:一本の線から生まれる「価値あるものづくり」』PHP研究所.