前回は、中小ファミリー企業による「産業集積」の概要とメリットについて解説しました。今回は、「特定企業への依存関係」を解消するという観点について取り上げます。

特定企業に依存する中小ファミリー企業も多いが・・・

従来、中小企業白書などで、中小ファミリー企業の脱下請企業化のテーマが議論されてきました。特に、企業城下町型の産業集積では、中小企業の主要取引先に対する取引依存度の高さに関心が向けられてきました。

 

特定企業への取引依存度が高くなると、顧客(例えば大企業)側の取引上の交渉力が高まります。顧客側の交渉力が高まることは、コスト、納期、品質などにおいて厳しい要求が中小ファミリー企業に突きつけられることに繋がります。それだけではありません。大企業の発注は大口のものが多く、景気動向によって大きく変動します。

 

例えば、中小ファミリー企業が大企業の需要要請に応じて設備増強の対応をとったにもかかわらず、景況感の悪化に伴う発注減や発注停止の影響を受けてしまうケースがあるようです。このように、特定企業への依存が強くなると、中小ファミリー企業の成長や存続の鍵が特定企業に握られてしまうことに繋がります。それでは、取引上の交渉力が弱い下請け型中小ファミリー企業には、どのような解決策が考えられるのでしょうか。

事業承継を通じた技術強化と顧客の多様化が重要に

筆者の調査によると、事業承継を上手に活用して、取引上の交渉力を強くしている下請け型ファミリー企業がいくつか見られます。

 

第一に、後継者育成による技術提案機能の強化です。例えば、後継者を自社の業界とは関係のない業界において他社経験を積ませて入社させる方法です。自社の川下に位置する企業であれば、後継者が新たな提案に繋がる技術的知識を身につけることができます。この後継者主導による社内チームを設置して、将来的な要素技術の研究開発を行っている企業もあります。

 

第二に、後継者の新市場開拓活動による顧客の多様化です。京都にある創業200年を超える某産業資材販売業では、代々の後継者に対して本社(京都)から遠くはなれた場所での顧客開拓が家業入社後の最初の仕事として与えられていました。同社の取り組みは、時代の変化や経営環境の変化に応じて自社の新たな顧客の開拓を行い、特定企業への取引依存のリスクの分散化を図っている例と考えられます。

企業行動の自律性を高め、取引先と新たな関係を築く

特定企業への依存関係が低減されると、下請け型中小ファミリー企業の自律性が高まります。自律性が高まることは、下請け型ファミリー企業に二つの効用を与えてくれることに繋がります。

 

第一に、顧客の多様化によって、主要取引先に対しての発言力が高まることです。コスト、納期、品質などにおいて、交渉の余地が広がる可能性が出てきます。第二に、多様な顧客への対応によって、中小ファミリー企業には多様な技術開発を行う必要が生じ、結果として顧客ニーズに柔軟に対応できる可能性が高まることです。

 

下請け型中小ファミリー企業の企業行動の自律性を高めることは、主要取引先との新たな関係をつくることといえるでしょう。主要取引先との新たな関係の構築は、過去の文脈を知る先代経営者ではなかなかできないことかもしれません。その意味で、新たな価値観をもった後継者だからこそ行いやすいといえるでしょう。

 

 

<参考文献>

落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.

中小企業庁編(2017)『2017年度版中小企業白書:中小企業のライフサイクル:次世代への継承』中小企業庁.

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継が…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧