今回は、困難を極めた3000坪の山の売却事例を見ていきます。※本連載は、株式会社おひさま不動産の代表取締役である渋谷幸英氏の著書、『相続した田舎の困った不動産の問題解決します』(雷鳥社)の中から一部を抜粋し、簡単には処分できない田舎の不動産の売却術をご紹介します。

分譲地にするはずが、塩漬け状態に

★確定測量の結果、自分の土地だと思っていた土地が他人の土地だとわかった石沢健一さんの場合


石沢健一さんのお父様は、生前、不動産屋を営んでいました。お父様はバブルのころに山を買い、分譲地にするつもりで造成までしていました。ところがバブルがはじけてしまい、その土地は“塩漬け”になっていたのです。この土地を相続した石沢さんは、最初のころはご自分の商売が忙しくて放置していたのですが、60歳を過ぎ、使わない土地を子供たちに残すよりは、今現金化して商売に役立て、ご自分の商売を大きくして子供たちに残したいと考えるようになりました。こうして、石沢さんは3000坪の山を売ることにしたのです。


《石沢健一さんから売却の依頼を受けた際の会話内容より》


石沢さん「売ってほしいのは、この土地なのだけどね」(石沢さんが公図を出して説明)


私「はい。こちらですね」(しばらく公図を見る)


私「あれ? 石沢さん、この土地、道路に接していないようですけれど」


石沢さん「え? そんなこと、ないと思うけど。まさか、不動産屋だった親父がそんな土地を買うとは思えないんだけどなあ。それにだいたい、8メートルもある市道に接しているよ。何回も行っているんだから、わかるよ」


私「そうですか。でも、見た目だけではわからない部分もあります。例えば、石沢さんの土地と道路との間に、誰か他人の土地がほんの少しでもあれば、それだけで石沢さんの土地は道路に接していないことになってしまいますから」


石沢さん「そうですか」


私「ええ、公図を見る限りでは、そのように見えます。なので、明日きちんと調査してきますよ」


石沢さん「よろしく、お願いします。でね、肝心な価格なんだけど、手残り1千万円になれば、あとは渋谷さんのやりやすいようにやってもらっていいよ」


私「ありがとうございます。なるべく高く売れるように頑張ります!」


石沢さん「まあ、そんなに頑張らなくてもいいよ。私だって、バブルのころに親父が買った価格では売れないことくらい、わかっているんだから」


私「ちなみに、いくらで買ったんですか?」


石沢さん「1億以上って聞いているよ。まあ、今はその10分の1で売れればいいんじゃないかな」

土地が道路に接しているのか、いないのか?

土地が建築基準法上の道路に接しているといないとでは、天と地ほどの差があります。都市計画区域にある土地に家を建てる場合、その土地が建築基準法上の道路に2メートル以上接している必要があるからです。この話は何度もしたので、覚えていらっしゃいますよね?


私はまず、石沢さんの土地と道路との間にあった土地が一体誰のものなのかを調べることから始めました。登記簿を取ってみると、持ち主は「内務省」となっています。いつの時代の話でしょう? 今時、日本に内務省など、存在しません。


さっそく、資料を持って市役所に聞きに行くことにしました。


「この、内務省の土地なんですけれど」と言って資料を指し示すより前に、担当者は、「ああ、赤道ね」と言いました。赤道というのは、昔、国が持っていた道のことです。ただこれは、建築基準法上の道路ではありません。


「では、この土地は赤道にしか接していないということでしょうか?」と尋ねる私に、「そういうことになりますね」と、役所の担当者は涼しい顔で答えます。


「では、この赤道を買い取ることはできませんか?」と聞いてみました。


赤道は、場合によっては買い取ることができます。もしも石沢さんがこの赤道を買い取ることができれば、石沢さんの3000坪の土地全体が、赤道の先の市道に接していることになるのです。


役所の担当者が、「赤道の払い下げについては、県の土木事務所で聞いて下さい」と言うので、役所から車で15分ほどの場所にある土木事務所に向かいました。

 

すると出てきた担当者は、「市の奴らはみんなバカだよ!みーんな、勉強不足!」と、大きな声で暴言を放ったのです。私に言われても困るんだけど、と思いながら聞いていると、担当者は「いいですか。ここは赤道なんかじゃありませんよ」とおっしゃいます。


「ここは市道なの」と言いながら、担当者は奥に歩いて行ってしまいました。そしてプリンターから何か紙を印刷して、持ってきたのです。


「はい、これ。道路台帳」


「はあ……」


「よく見てよ、これ。市の奴らが赤道って言っている部分は、ちゃんと市の道路にかかっているでしょ?」


そう言われて道路台帳をのぞき込むと、確かに内務省所有の土地が、ほんのわずかな部分ではあったものの、市の道路と重なっています。


「でしょ? だからこれは、市道なの。赤道なんかじゃないの。今からこの道路台帳を持って、役所に行ってきな」


私は土木事務所の担当者に言われるまま、再び車で15分かけて市役所に戻りました。ところが市役所の担当者は、「ここは赤道だよ。市では管理していないから」とおっしゃいます。困ってしまいました。


再び、土木事務所に戻った時には、すっかり日が暮れていました。土木事務所の担当者は、さっきよりも市役所の職員を馬鹿にし、そして怒っています。私は内心、そんなこと、私の前で言うよりも市役所に電話して直接言ってくれればいいのに、と思いました。


結局、土木事務所の人は「もう市役所なんかに話したって仕方ないから、県の財務事務所に電話して相談するといいよ」と教えて下さいました。この相談をした後、数週間後に財務事務所から、「ここは市道で間違いない」とのお墨つきを得ることができたのです。

確定測量完了前に、土地を引き渡した結果・・・

道路の問題も解決したところで、ようやく石沢さんの土地の販売を開始しました。すると、数カ月後に購入希望者が現れました。事業用として倉庫を建てたりして使いたいというのが、買主さんの希望でした。でも、それには開発許可が必要です。専門的な話になってしまうので、広大な土地を開発するには、そのような許可が必要なのだということだけ、覚えておいて下さい。


さて、ここで問題なのは、開発許可を得るには、境界をきちんと確定していなくてはならないことです。これにお金がかかるのです。石沢さんの土地と境界を接する地主さんすべての印鑑が必要だからです。「確かに境界はここで間違いありません」という書類に印鑑を押してもらわなくては、境界は確定しません。


石沢さんの土地の場合、これに相当お金がかかってしまいました。隣接する地主の数が多かった上、道路との境界を確定する必要もあったためです。


それでも土地がまあまあ高く売れたため、石沢さんが希望している手残り1千万円は確保でき、私もホッとしました。


ところで、石沢さんの土地の境界確定には、半年近くかかってしまいました。買主さんはできるだけ早く引き渡すことを希望されたので、境界確定がすべて済む前に、決済を終えてしまいました。


ところが決済後に測量結果が出て、私も石沢さんも、肝を冷やすことになってしまったのです。なんと、石沢さんのお父様が進入路として整地していた土地のほとんどが、お隣さんの土地でした。結局、お隣さんの土地を買い取る費用を石沢さんが負担して、最終的に決着しました。


でもやはり、買主さんが急いでいたとしても、確定測量後に引き渡すべきでした。このことはとても反省しています。

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    本連載は、2017年3月25日刊行の書籍『相続した田舎の困った不動産の問題解決します』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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