日当たりが悪く、地盤の緩い農地・・・「地目変更」は可能か?

今回は、日当たりが悪く、地盤の緩い農地の「地目変更」を試みた事例を見ていきます。※本連載は、株式会社おひさま不動産の代表取締役である渋谷幸英氏の著書、『相続した田舎の困った不動産の問題解決します』(雷鳥社)の中から一部を抜粋し、簡単には処分できない田舎の不動産の売却術をご紹介します。

農業委員会から、農地以外への地目変更を断られた土地

<法務局から地目変更できないと言われたのに地目変更に成功した竹下一郎さんの場合>

 

竹下一郎さんは、神戸にお住まいです。竹下さんの関心事は、ご自分が持っているお金をドルに換えることです。長期的に見れば円安になるから円をドルに換えなくてはならない、というのが竹下さんの持論です。そこで竹下さんは、ご自分が持っている資産をドルに換えるための一環として、亡くなったお父様から20年以上前に相続した土地を何とかして売りたいと思ったのです。

 

ところが最初、懇意にしている信託銀行系の不動産屋に相談したところ、「そういうのは、地元の不動産屋に相談したほうがいいですよ」と言って、体よく断られてしまったのです。その後、しばらくは「どうせどこも売ってくれないだろう」と諦めていました。ところが、そんなことをしていたら一生売れないで終わってしまうと思い立ち、信託銀行系の不動産屋からアドバイスされた通り、地元の不動産屋である当社に売却を依頼してきたのです。

 

《竹下一郎さんから電話で売却の依頼を受けた際の会話内容より》

 

竹下さん「畑と田んぼを売ってくれんかな? 今から資料を流すから、見てみてよ」

 

私「はい、ありがとうございます」

 

(FAXが届く)

 

私「田んぼと畑とあわせて500坪ですか・・・。農家に売るにはちょっと中途半端な大きさかもしれませんね」

 

竹下さん「中途半端も何も、農家になんか売れないよ」

 

私「それはまた、どうしてですか?」

 

竹下さん「どうしても何も、あんな日当たりが悪いところ、だいたい畑にも田んぼにも向かないよ」

 

私「そんなに日当たりが悪いのですか?」

 

竹下さん「ありゃ、あかん。南側が崖になっていて、その上に家が建っておるわ。しかもその家ときたら、崖の真ん中あたりから塩ビ管突き出して、自分とこの浄化槽の水をチョロチョロと、うちの土地に流しよるわ」

 

私「それは困りますね。やめてもらうように言った方がいいですよ」

 

竹下さん「そんなの、とっくに文句言うたわ。10年も前だったかな。その時はやめよったんだが、また流しよる」

 

私「ご覧になったのですか?」

 

竹下さん「そんな遠いところ、よう行かんわ。でも、親戚が近所に住んでいるから、見てきてもらったんよ」

 

私「そうでしたか。それと地目変更の件なのですが・・・」

 

竹下さん「だいぶ前に農業委員会に聞いた時は、(農地以外への地目変更は)許可できん言われたわ」

 

私「そうでしたか。でも今はもう状況が変わっているかもしれませんので、私も一度行って聞いてみますよ」

 

竹下さん「よろしく」

事業用への地目変更を依頼したものの・・・

私は早速、農業委員会に相談に行きました。

 

「この土地なんですけど」と言って私が資料を見せると、担当者は顔をあげ、「知ってますよ、神戸の人でしょ」とおっしゃいます。

 

「ご存知でしたか?」

 

「ご存知もなにも、いつも電話してくるから、覚えてしまいましたよ。強烈な方ですよね」

 

「そうですか?」

 

「そうですよ。で、この土地を売りたいって言っているんですか?」

 

「はい」

 

すると担当者は、「ここは1種農地だけど、専用住宅(普通の家)としてなら許可できますよ」と言いました。でも、この土地は日当たりが悪く、じめじめしていて地盤も緩い土地です。そんな土地にあえて家を建てたい人などいるか疑問です。

 

また、農地を住宅地にする場合には、500㎡(150坪程度)までしか許可されないという縛りがあります。ところが竹下さんの土地は500坪もあります。ということは、350坪も残ってしまうのです。

 

だったら、残らないように分割して売ればよいのではないか、と思われるかもしれません。でもひと続きの土地をいくつかに分割して売る行為は、不動産屋にしか認められていません。竹下さんはご自分の土地を4分割して売ることなどできないのです。

 

私は農業委員会の担当者にこうした事情を説明し、専用住宅として売るのは難しいことを訴えました。そして、「事業用に資材置き場とか、倉庫用地とか、そういった用途で土地を探している人に売りたいのですが、ダメですか?」と聞いてみました。

 

「難しいですね」と担当者。

 

「なんでですか?」

 

「ここは1種農地だから、なんでも許可できるわけではないのですよ」

 

「でも、住宅用地としては不向きだし、日当たりが悪いのでは農地としても不向きです」と言ってみたものの、そのような理屈が通用しないことは、私にもわかっていました。

法務局に行けば地目変更できる!?

結局、その場は引き下がることにして、事務所に戻るとさっそく竹下さんに報告の電話を入れました。私の話を最後まで聞く前に、竹下さんはもう怒っていました。

 

「なんだ⁉︎ 税金ばかり取りよってからに!」と竹下さんは、怒鳴り。

 

「今から電話して、文句言うたる。もう税金なんか払わんぞって言うたるわ。農地として使えないわ、売ることもできないわ、その上税金だけふんだくろうなんて、どういうことや?」

 

それから10分もしないうち、竹下さんから電話がかかってきました。

 

「法務局に行けば地目変更できるって言われたよ」

 

「え?? 本当ですか?」

 

「本当だよ。もう30年も使っていない土地だから、農業委員会の許可はいらないって言われたよ」

 

これには本当に驚きました。

 

私はさっそく、地目変更後に引き渡すという条件で竹下さんの土地を売り出しました。竹下さんと話し合った結果、売却価格は相場よりかなり安い価格にすることにしました。

 

理由は、地目が農地だということ以外にも、地盤が緩いことや日当たりが悪いこと、さらには隣地の家が自分の家の浄化槽の水を垂れ流しているという問題もあったからです。このため、竹下さんの土地には水の通り道が出来てしまっていました。

 

こうした悪条件をすべて丸呑みにしてくれる買主さんを探すには、竹下さんと話し合って決めた価格は100万円でした。こうして竹下さんの土地はようやく売りに出すことができたのです。

 

すると、買いたいという方が現れました。中古車を海外に輸出している方が、中古車の置き場として購入するというのです。

 

この話は、次回に続きます。

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    株式会社おひさま不動産 代表取締役社長

    宅地健物取引士、元中小企業診断士。10 年以上前から主婦の傍アパート経営を行う。その経験から不動産会社を起業。事業用の不動産売買や空き家買い取再生の事業展開をメインとしているが、畑の真ん中という立地上、どの不動産屋も売りたがらない、田舎の困った不動産売却も多く引き受けることになる。特にシニア世代が「子どもに相続させたくない不動産」、子ども世代が親から相続してしまった「行ったこともない土地」の売却を数多く仲介。

    著者紹介

    連載処分が難しい「田舎の土地」の売却術

    本連載は、2017年3月25日刊行の書籍『相続した田舎の困った不動産の問題解決します』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    相続した田舎の困った不動産の 問題解決します

    相続した田舎の困った不動産の 問題解決します

    渋谷幸英

    雷鳥社

    不動産を相続して、誰もがハッピーになれるわけではありません。田舎の不動産は困った問題を抱えていることが多いからです。田舎の不動産、売りたい人も買いたい人も必読の1冊。 「買ったときには家が建つ土地だったのに、…

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