前回は、経営者自らが戒めたい「経費の公私混同」について紹介しました。今回は、会社の資産・負債・純資産がわかる「貸借対照表」の見方について説明します。

お金が残っているはずなのに、使えるお金がない?

これまで「出ていくお金」と「入ってくるお金」を見てきましたが、それではその差額である「残っているお金」はどうでしょうか?「残っているお金」の中には、現金として残っているものと、借金、自動車や不動産といった資産などがありますが、この内訳を把握しておかなければ、「残っているお金」はあるはずなのに「動かせるお金はない」という事態になりかねません。

 

財産はいくらあるのか?借金はどれだけ残っているのか? といった会社の財政状態を見るには、「貸借対照表(B / S=BalanceSheet)」を使います。

 

貸借対照表には、「資産」と、「負債」「純資産」の3つの要素が入っています。具体的には、貸方(右側)に借金や負債、資本金など、どのように資金を調達してきたのかを記載します。借方(左側)では、その集めた資金がどのような形になって会社で運用されているのかを見ます。在庫や現金、設備、土地、車などです。

 

そしてこの3つは、純資産と負債を足した額が資産とぴったり同じ額になります。

 

もし資産のほうが少なくなってしまったとしたら、それは負債が多く自転車操業になっている証拠です。

 

[図表]貸借対照表B/Sの考え方

純資産だけが大きくなっている会社は要注意

●資産の部

 

資産の部は、流動資産、固定資産、繰延資産の3つで構成されています。流動資産は現金や預金のほかに、売掛金や受取手形、在庫など通常1年以内に現金化されるものが計上されています。固定資産は1年を超えて所有するものが計上されています。建物や車などは現金化が目的ではなく、会社で使用するために所有しているものなので固定資産として計上されます。

 

繰延資産は聞きなれない言葉ですが「くりのべしさん」と読みます。繰延資産は現金化することを目的としない資産です。すでに会社として支出した経費の効果が翌年以降にも続く場合に、その効果を翌期に繰り延べるための科目です。たとえば、創立費のように会社を設立登記するまでに支払った費用や、新技術、新市場の開拓に要した開発費などが該当します。

 

●負債の部

 

負債の部は2つで構成されています。流動負債と固定負債です。

 

流動負債は、通常1年以内に支払いや返済の期限の来る債権が該当します。買掛金や支払手形、金融機関の借入のうち短期に返済の期日が来る短期借入金などです。固定負債は証書借入のように長期で金融機関から借り入れている長期借入金や、社債などが該当します。

 

●純資産の部

 

純資産の部は資本金、資本剰余金、利益剰余金から構成されていますが、内容は分かりにくく、難しい内容を含みますので、中小企業の場合は、この部分をあまり深く考える必要はないかと思います。最低限、資産の部の合計と負債の部の合計の差額が純資産の部になることを知っておいてください。この差額が資本金以上の金額になっていれば、資本金を超えた部分は、これまでの営業努力による利益の積み重ねだと考えてよいでしょう。

 

もし、資産と負債の差額が当初の出資額である資本金より少なければ、最初の元手を食いつぶしてしまっていることを意味します。さらに、資産の額から負債の額を引いた額がマイナスの場合は債務超過といい、自転車が倒れる寸前の状態ですから、即刻の対策が必要です。

 

ここで一つ重要なことを指摘します。この純資産の部の金額がとても大きくなっている、健全な経営を続けてきた会社は注意が必要です。会社を次の世代にバトンタッチする場合に、株も引き継がせるのですが、株は目に見えなくても財産ですので相続税や贈与税の対象とされます。

 

株価が高ければ思わぬ税負担を強いられ、事業承継が円滑に進まないことも考えられるのです。純資産の部が膨らんでいる会社は、事業承継のための株価対策を顧問税理士などに依頼するとよいでしょう。

本連載は、2017年3月23日刊行の書籍『「万年自転車操業」の会社を「万年安定経営」に変える方法 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「万年自転車操業」の会社を「万年安定経営」に変える方法

「万年自転車操業」の会社を「万年安定経営」に変える方法

小林 優一

幻冬舎メディアコンサルティング

リーマンショック、アベノミクスを経た現在でも、中小企業は生き残りをかけた厳しい時代を迎えています。このまま手をこまねいていれば倒産・廃業を回避することはできません。しかし、多くの零細企業経営者・個人事業主は、何…

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