現在のサ高住の多くは「要介護者向け」だが・・・
前回に引き続き、急激に数を増やした「サ高住」が抱える問題を見ていきましょう。サ高住の運営事業者の8割以上が介護・医療系事業者です。
[図表1]サービス付き高齢者向け住宅事業を行う者
このようなデータから、現在のサ高住の多くは要介護者向けだということが推測できます。
ところが実際には、シルバー世代のなかで要介護者の割合はそれほど多くはありません。現在、日本の65歳以上の人の数は約3411万人です。そのうち要介護認定者は約570万人。
つまり、シルバー世代のうち介護を必要とする人の割合は全体の17%程度しかいないのです。住宅市場は、供給実態とは逆の、介護を必要としない高齢者向けの住宅を求めているといえるのではないでしょうか。
欧米では入居者の尊厳が守られる「住宅」へとシフト
要介護者向けではない高齢者住宅の参考になるのが欧米先進国の例です。日本のサ高住は、2011年に登場しました。ところがほとんどの欧米先進国では、それ以前から似たようなシルバー向け賃貸住宅が存在し、すでに市民権を得ています。
おもな国々の全高齢者に対する介護施設と高齢者住宅等の割合は以下の図表2のようになっています。
[図表2]全高齢者に対する介護施設・高齢者住宅等の割合
各国の制度内容は異なるものの、介護付きの施設系と自立した人も対象とする住宅系に大別した場合、日本は欧米先進国に比べ圧倒的に住宅系の割合が少ない状態です。たとえば、高齢者福祉のトップランナーであるデンマークの9分の1程度しかありません。
少し古いデータなので、日本にサ高住が登場したことでこの差は若干縮まっているはずですが、現在でも欧米先進国に追いついていないことは間違いないでしょう。
デンマークの高齢者住宅では、徹底して自立を支援しています。同国の政府は「住宅のタイプが高齢者が受ける介護その他のサービスを決めるべきではない。個人のニーズが介護を決めるべき。介護は高齢者に応じたものであるべきで、高齢者の住居に応じたものであるべきではない」として1988年以降プライエム(特別養護老人ホームのようなもの)の新築を禁止しました。
その後、シルバー世代の早めの引っ越しを推進して、実際に55~70歳の引っ越しが一般的になっています。
欧米先進国のシルバー世代の住まいの潮流は、介護付きの「施設」ではなく入居者の尊厳が守られる「住宅」の方へ流れているのです。
私たちの会社では、常にこのような欧米先進国の事例を研究しています。そのうえで今の自宅の自由さを維持しつつ、バリアフリー構造や生活相談、見守りといったサービス、さらにおいしい食事の提供などで、より安全・安心で快適な住まいの実現を目指しています。