入居したシルバー世代は「住みにくい」と訴える!?
私が理想とする高齢者向け住宅は、食事や入浴の時間が決められているといった入居者の毎日の行動を束縛するような、いわゆる高齢者施設ではありません。健康なシルバー世代が、今の自宅と同じように自由な生活を謳歌できる住まいです。
そのような住まいにもっとも近いと考えるのが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。
ところが実際に入居したシルバー世代から、サ高住は住みにくいという意見を聞くことが少なくありません。そのおもな原因は、現在供給されているサ高住の多くが要介護になったシルバー世代をターゲットとしているという実態にあるようです。
それを示唆する次のようなデータがあります。
●登録条件の設備が完備されていない住戸が約8割
サ高住は原則として各住戸にキッチン、トイレ、収納設備、洗面設備、浴室を備えなければなりません。どれも住戸内で生活を完結させるには必要な設備といえるでしょう。
しかし、実際には78.8%の住戸がいずれかの設備が備わっていません。たとえば浴室は、77.5%のサ高住にはないのです。これは浴室を共同としているからです。
共同ならさぞや広いだろう、と思うかもしれませが、広さの規定はないので実情は一般家庭用の1坪タイプのユニットバスがほとんどです。しかも、多くの場合は毎日利用することができず、入浴時間や順番も決まっています。
長風呂やからすの行水など入浴の好みは人それぞれ。私の父親は今年で90歳ですが、当たり前のように「きょうはシャワーだけでいいや」「朝風呂に入ろう」と好きなことを言っています。ところが、8割近くのサ高住は、そんなことは言えない状況です。
ほとんどのサ高住が抱える「狭い」という欠点
●9割以上が30㎡未満の住戸
松岡氏のコラムにもありましたが、人間の住まいは「寝る」「食べる」「くつろぐ」のすべてが問題なく行える広さがないと快適とはいえず、自立した生活は送れません。
サ高住の原則は25㎡以上ですが、私たちはできれば30㎡台以上は欲しいと考えています。30㎡台といえば、だいたいトイレや浴室などの水まわりにプラスして10畳ほどのLDKと4畳ほどの寝室の1LDKです。それでも広々と感じない人もいるでしょう。
ところが実際のサ高住の9割以上は30㎡未満です。内訳としてもっとも多いのは18㎡以上20㎡未満で56.7%、続く20㎡以上22㎡未満が13.3%を占めています。原則25㎡以上にもかかわらず、キッチンや浴室を共同とすることで平均はおよそ22㎡となっています。
[図表]サービス付き高齢者向け住宅の住戸面積
人間は食事、入浴、排せつ以外のことをする空間がある程度広い方が快適さを感じるはずです。
また、ある程度以上の広さがあれば様々な間取りが可能になります。20㎡前後の場合は、ほとんどの間取りが1Kです。1Kの場合は、どうしても寝室とキッチンなどの水まわり設備の配置が同じになりがちです。そのため、すべての住戸が同一の間取りというサ高住が多々あります。
一方で30㎡台の広さがあれば1LDKの間取りが可能なので、リビングを広めにしたり、バルコニー側の部屋をリビングではなく寝室にしたりと、自由度が広がります。実際に私たちの物件では、各個人の好みに合った間取りを選択できるように同じ棟内でも複数の間取りを用意しています。
間取り選びの基準は好みだけではありません。たとえば、夫婦で入居するならば、最低でも1LDK、できれば2LDKがいいという声をたびたび聞きます。夫婦とはいえ、一人になれる空間が欲しいということでしょう。
30㎡台以上の1LDKや2LDKの住戸ならば、夫婦間の適度な距離感を保ったまま一緒に暮らすことができます。
さらに夫婦のどちらかが要介護者ならば、やはり広い住戸が適しているはずです。具体的には、2LDK以上の間取りを選択することで玄関近くの部屋を要介護者の寝室とし、夜中の排せつ介助などを外部のホームヘルパーに任せてしまえば、もう一方の入居者は別室でぐっすり寝ることができます。
こういったことから、現在の30㎡未満に偏ったサ高住の状況は市場のニーズに合っていないのではないでしょうか。
この話は次回に続きます。