「いつか戻ってくるだろう」長男一家のために残していた部屋
74歳の信一さん(仮名)は、同い年の妻・和代さん(仮名)と地方都市の一戸建てで暮らしています。夫婦の年金収入は月約20万円。住宅ローンは完済しており、貯蓄も約1,500万円あります。
築40年の自宅は4LDK。長男と長女が独立してからは、使わない部屋が増えました。
それでも信一さんは、長男が使っていた2階の部屋をほとんど片づけずに残していました。
「孫が大きくなったら、泊まりに来ることも増えるだろうと思っていたんです」
長男の健太さん(46歳・仮名)は、妻と小学5年生の息子、小学2年生の娘との4人暮らし。実家から車で約2時間の場所に住んでいます。
以前は年末年始や夏休みに帰省し、孫たちも庭で遊んだり、祖父母と買い物に出かけたりしていました。
ところがここ2年ほどは帰省が減り、昨年の正月も顔を見せませんでした。信一さんは寂しさを感じ、健太さんに電話する機会が増えました。
「今年の夏は帰ってこられるのか?」
「子どもの予定があるから、まだわからないよ」
そんなやり取りを繰り返すうちに、信一さんは長男一家の暮らしにも口を出すようになります。
「そんなに習い事をさせなくてもいいだろう」「子どもは田舎で遊ばせたほうがいい」
さらに、築40年の自宅についても話を持ちかけました。
「いずれこっちに戻ってくるなら、家を直しておこうと思うんだ。お前たちが住むことも考えてな」
健太さんは、そのたびに「今は考えていない」と答えていました。しかし信一さんは、将来は気持ちが変わるかもしれないと考えていたのです。
転機となったのは、今年の夏休みでした。
久しぶりに帰省した健太さん一家を前に、信一さんは孫たちへ「大きくなったら、この家に住んでもいいんだぞ」と話しかけました。
すると健太さんが、少し強い口調で言いました。
「父さん、その話はもうやめてくれないか」
