「せっかく帰ってくるんだから」両親が用意していたもの
46歳の浩一さん(仮名)は、都内で妻と中学生の娘と暮らす会社員です。実家は新幹線で約2時間の地方都市にあり、73歳の父・勝彦さん(仮名)と母・久美子さん(仮名)が暮らしています。
仕事や娘の学校行事などで帰省の機会が減り、最後に実家を訪れたのは約2年前。今回、浩一さんは有給休暇を使い、9月の連休に3日間だけ一人で帰ることにしました。
「正月は家族の予定が合わないかもしれないから、先に顔を見ておこうと思ったんです」
駅まで迎えに来た父は、以前と変わらず元気そうでした。家に着くと、母も笑顔で出迎えてくれます。
ただ、浩一さんは玄関で少し気になることがありました。
以前はきれいに片づいていた廊下に、新聞の束や段ボールが置かれていたのです。母に尋ねると、「あとで片づけるつもりだったの」と笑いました。
夕食には刺身や煮物、揚げ物など、浩一さんの好物が並びました。
「こんなに作らなくてもよかったのに」
そう言うと、母は「せっかく帰ってきたんだから」と答えます。
ところが、食事の途中で母が何度も腰をさすっていることに気づきました。
「腰、痛いの?」
「ちょっと疲れただけ。大丈夫よ」
翌朝、浩一さんが起きると、母はすでに台所に立っていました。朝食を済ませた後も、昼食の準備や洗濯に追われています。
父も普段はそれほど買い物に出ないはずなのに、息子の好きな菓子や飲み物を買うため、車で何度も出かけていました。
「何か手伝おうか」
浩一さんが声をかけても、両親は「ゆっくりしていればいい」と言うばかりです。
2日目の夕方、母が食卓に料理を運ぶ途中で立ち止まり、椅子に腰を下ろしました。
「少し休ませて。昨日から立ちっぱなしだったから」
大事には至りませんでしたが、浩一さんは胸がざわつきました。
以前なら、母は家事をこなした後も元気に話していたはずです。父も買い物から帰るたびに、疲れた様子でソファに座り込んでいました。
久しぶりの帰省で、両親が年齢を重ねたことを実感したのです。
