「年金が入るから大丈夫」母が繰り返していた言葉
82歳の澄江さん(仮名)は、地方都市の一戸建てで一人暮らしをしています。夫とは20年以上前に離婚しており、現在の収入は月約12万円の年金です。
住宅ローンは完済済み。以前はパートで働いていましたが、70代半ばで仕事を辞め、今は年金と貯蓄で生活しています。
近隣の市に住む54歳の娘・由紀さん(仮名)は、月に1、2回ほど実家を訪ねていました。
「母は昔から倹約家でした。年金もあるし、家賃もかからないから、何とか暮らせていると思っていたんです」
由紀さんは買い物に付き添ったり、重い荷物を運んだりしていましたが、母の通帳や家計簿を見たことはありませんでした。
生活費について尋ねても、澄江さんは決まってこう答えます。
「年金が入るから心配しないで。自分のことくらい、自分でできるわよ」
ところが、夏のある日。実家を訪れた由紀さんは、母から「水道料金の紙が見つからないから、一緒に探してほしい」と頼まれました。
澄江さんの了承を得て居間の引き出しを開けると、封筒や請求書が何通も重なっていました。
その中に、赤字で「督促」と書かれた書類があったのです。確認すると、固定資産税の納付書や水道料金の督促状、住宅設備の修理代金の請求書が出てきました。
「お母さん、これ、まだ払ってないの?」
澄江さんは一瞬黙り込み、「次の年金が入ったら払うつもりだった」と答えました。
由紀さんが整理したところ、未払い額は合計約17万円。固定資産税の残額が約5万円、水道料金が約1万円、給湯器の修理代が約11万円でした。
水道はまだ止まっていませんでしたが、督促状には支払期限が記されていました。
「17万円も未払いがあるなんて、想像もしていませんでした」
さらに気になったのは、請求書の日付が数ヵ月前にさかのぼっていたことです。
「どうして言ってくれなかったの?」
由紀さんが尋ねると、母は小さな声で答えました。
「あなたにも生活があるでしょう。迷惑をかけたくなかったのよ」
