「もう連絡してこないでくれ」長男が拒絶した理由
その夜、健太さんは両親に、自分たちは実家へ戻るつもりがないと改めて伝えました。
「今の場所で仕事も生活も落ち着いているし、子どもたちにも友達がいる。何度も言っているだろう」
信一さんは「家があるのにもったいない」と返しましたが、健太さんは黙り込んでしまいます。
和代さんが間に入り、その場はいったん収まりました。しかし、帰省後も信一さんは電話やメッセージで自宅の話を続けました。
「家の修繕にお金をかける前に、お前の考えを聞いておきたい」
数日後、健太さんから電話がありました。
「父さん、俺たちの生活は俺たちで決めたい。何度言っても同じ話になるなら、もう連絡してこないでくれ」
それきり電話は切れ、翌日から信一さんの電話はつながらなくなりました。メッセージにも返事がありません。
長女を通じて確認すると、健太さんは当面、父親からの連絡を受けないつもりだと話しているそうです。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、子どもがいる65歳以上の人のうち、「子と同居したい、同居を続けたい」と答えた人は23.2%、「同居ではなく近居したい」は32.8%でした。一方、「同居も近居もしたくない」は14.1%となっています。
親世代の間でも、子どもとの望ましい距離感には違いが見られます。
信一さんは、長男に実家へ戻ることを強制したつもりはありませんでした。ただ、和代さんは以前から夫の言動が気になっていたといいます。
「健太は何度も戻るつもりはないって言っていたでしょう。それなのに、あなたは帰ってくることを前提に話を進めていたじゃない」
和代さんも、夫が長男一家の帰省を心待ちにしていたことは知っていました。そのため、健太さんが困った表情を見せても、強く口を挟めずにいたのです。
「私も、もっと早くあなたに言えばよかったのかもしれないね」
信一さんは、長男の返事を聞いているつもりで、自分の希望ばかりを伝えていたことに気づきました。
数日後、信一さんは孫たちが以前遊んでいた部屋を片づけ始めました。棚には、小さな電車のおもちゃや積み木が残っています。
「孫がまた来たら遊ぶと思って、ずっと取ってあったんです。もう、あの頃の年齢じゃないんですよね」
信一さんは、おもちゃをすぐに処分する気にはなれませんでした。ただ、長男一家が戻ることを前提とした自宅の改修計画はやめました。
現在夫婦は自分たちが暮らしやすいよう、1階の水回りや段差の改修を検討しています。健太さんとの連絡は、まだ再開していません。
「いつかまた話せるようになればと思います。でも、今は待つしかないですね」
子どもが独立し、自分の家庭を築くと、親子の付き合い方も少しずつ変わっていきます。親がよかれと思って伝えた希望も、繰り返されることで子どもには負担になる場合があります。親子が無理なく交流を続けるためには、それぞれの生活を認め合う姿勢が欠かせません。
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