定年後も5年働き、65歳でようやく叶えた「ご褒美の旅」
「家族には内緒にすればよかったのかなと思ってしまいました」
筆者の事務所でそう話すのは、中村和彦さん(66歳)です。隣に座る妻の由美子さん(仮名/63歳)は、どこか落ち着かない様子でした。
和彦さんは大学を卒業後、国の出先機関で38年間勤務。60歳で定年を迎えた2021年3月に、退職手当として約2,100万円を受け取りました。そのうち約700万円を、残っていた住宅ローンの一括返済に充てています。その後も再任用で働き続け、65歳を迎えた年度末の2026年3月に、ようやく完全にリタイアしました。
由美子さんも、かつては同じ職場で働く国家公務員でした。和彦さんと結婚し、8年勤めたところで出産を機に退職。以来、専業主婦として家庭を支えてきました。
「夫は本当に休まず働いてきた人なんです。だから、仕事を辞めたら、一度だけ思い切った旅行をしようと2人で決めていました」
選んだのは、ファーストクラスでパリを往復し、スイスとイタリアも12日間かけて巡る旅です。航空券だけで、夫婦で数百万円。ホテルや現地での移動を含めると、費用は約600万円にのぼりました。
旅行前の資産は、退職手当の残りと、これまでの貯蓄を合わせて約3,500万円。年金は、和彦さんの分が加給年金を含めて月約24万円あります。
「これだけあれば、一度くらい贅沢をしてもいいかなと」
帰国後、由美子さんは旅の写真を親族のLINEグループに送りました。返ってきたのは、実家近くに住む和彦さんの妹・久美子さん(仮名/62歳)からの「すごいね」という短いひと言だけでした。
