「旅行には後悔していない。でも…」帰国後、生活の変化
帰国して最初の数週間、美津子さんは写真を整理したり、友人に旅の話をしたりして過ごしました。
しかし次第に気になり始めたのが、毎月の生活費です。旅行前はパート収入が月約9万円あり、貯蓄の取り崩しを抑えながら暮らしていました。
ところが、帰国後に以前の勤務先へ連絡すると、すでに別の人を採用しており、すぐに復帰できる仕事はないとのことでした。
「戻ってきたら、また週3日くらい働けばいいと思っていたんです。でも、そんなに簡単ではありませんでした」
63歳の美津子さんは、原則として65歳から受け取る老齢年金をまだ受給していません。年金見込額は月約12万円ですが、それまでの生活費は貯蓄で賄う必要があります。
毎月の生活費は、管理費や修繕積立金を含めて約17万円。仕事を辞めている間は、その全額を貯蓄から支出することになります。
相続した800万円のうち、旅行に使ったのは280万円。残りの520万円も手元にあり、以前からの貯蓄と合わせれば、すぐに生活が立ち行かなくなる状況ではありません。
それでも、収入がない状態で毎月預金残高が減っていくことに、美津子さんは落ち着かない気持ちを抱くようになりました。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯では、1ヵ月の可処分所得が11万8,465円、消費支出が14万8,445円で、約3万円の不足が生じています。年金生活に入ってからも、収支によっては貯蓄の取り崩しが続くことになります。
美津子さんの場合、65歳以降も現在の生活費が続けば、年金見込額との差は月約5万円。税金や社会保険料なども考えると、将来の家計をもう少し詳しく確認する必要がありました。
さらに、旅行中に留守にしていたマンションでは、管理組合から給排水設備の更新について案内が届いていました。数年以内に修繕積立金が引き上げられる可能性があるといいます。
「旅行のお金だけを計算して、帰ってからの仕事や生活費をあまり考えていなかったんです」
美津子さんは家計を整理し、まずは月5万~6万円程度の収入を目標に仕事を探し始めました。以前と同じ事務職にこだわらず、短時間勤務の求人にも応募しています。
また、65歳以降の年金生活を見据え、固定費の見直しにも着手しました。
「旅行には後悔していません。あの3ヵ月がなかったら、きっと今でも『いつか行きたい』と言っていたと思います」
そう話す一方、旅から戻ったあとも自分の生活は続いていくのだと、改めて実感したそうです。
長年の夢を実現するためにお金を使うことは、人生を豊かにする選択の一つです。ただ、長期旅行では費用に加え、仕事を休む期間の収入や帰国後の生活も考える必要があります。将来の家計を見通したうえで計画を立てることが、旅の思い出を安心して振り返れる暮らしにつながるでしょう。
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