「今なら行ける」相続した800万円で決断した3ヵ月の旅
63歳の美津子さん(仮名)は、長年勤めた会社を60歳で退職し、現在は週3日、事務のパートとして働いています。
夫とは50代で離婚し、子どもはいません。住宅ローンを完済した小さなマンションで一人暮らしを続けています。
美津子さんには、若い頃から抱いていた夢がありました。ヨーロッパを鉄道で巡り、美術館や歴史ある街を時間をかけて訪ねることです。
しかし、仕事が忙しかった時期には長期休暇を取れず、退職後も「もう少し貯金が増えたら」と先延ばしにしていました。
そんな折、母親が亡くなり、遺産分割を経て約800万円を相続しました。
美津子さんには退職金の残りを含めて約1,500万円の貯蓄がありましたが、老後資金を取り崩すことには抵抗がありました。一方、相続したお金については、母親との思い出も重なり、特別な使い道を考えたいと思ったそうです。
「母は旅行が好きだったんです。でも、晩年は足が悪くなって、遠出が難しくなりました」
母親が生前、「元気なうちに行きたいところへ行きなさい」と話していたことも、決断を後押ししました。
「いつか、では遅いと思ったんです」
美津子さんは勤務先に相談し、パートをいったん退職。3ヵ月かけてヨーロッパを巡る旅行を計画しました。
訪問先はフランス、イタリア、オーストリアなど6ヵ国。航空券や宿泊費、鉄道代、食費などを含め、予算は約250万円です。
物価や為替の影響も考え、宿泊先は中価格帯のホテルやアパートメントを中心に選びました。
出発前、友人からは「そんなに長く一人で旅行するなんて、すごいね」と驚かれたそうです。
美津子さん自身も不安がなかったわけではありません。それでも、現地で見たい絵画や街並みを思い浮かべると、気持ちは高まりました。
実際の旅行では、予定を変更して小さな町に数日滞在したり、現地の料理教室に参加したりと、短い観光旅行ではできなかった経験を重ねました。
「時間を気にせず好きな場所にいられる。それが本当に幸せでした」
最終的な旅行費用は約280万円。予算は少し超えましたが、美津子さんは満足して帰国しました。
ところが、帰国後の生活は、出発前に思い描いていたものとは違っていました。
