「300万円くらいお願いできたら」息子の希望額に戸惑った父
千佳子さんは、以前から息子が親の貯蓄額をある程度知っていることを気にしていました。
数年前、信夫さんが退職金を受け取った際、家族で食事をした席で「老後のために3,000万円くらいは残せそうだ」と話したことがあったのです。
「亮介は、私たちに余裕があると思っているのかもしれないわね」
信夫さんも、息子が結婚資金として数百万円の援助を期待している可能性を考えました。しかし夫婦の貯蓄3,000万円は、これからの生活費や住宅の修繕、医療・介護に備えるためのお金です。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、1ヵ月の可処分所得が22万1,544円、消費支出が26万3,979円でした。平均では毎月約4万2,000円の不足が生じています。
信夫さん夫婦も、年金だけでは毎月の生活費を賄えていません。
さらに、築30年を超える自宅では、数年以内に外壁や給湯設備の修繕が必要になる見込みです。
「今は元気だからいいけれど、80歳、90歳になったときのことも考えないと」
千佳子さんの言葉に、信夫さんもうなずきました。
夫婦は家計簿と預金残高を確認し、今後の支出を整理しました。
毎月の不足額は約3万円。年間では36万円となり、20年間続けば720万円です。物価上昇や突発的な支出を考えると、貯蓄を大きく減らす援助には慎重にならざるを得ません。
「100万円くらいなら、お祝いとして渡せると思う。でも、500万円となると話は変わってくるな」
信夫さんは、息子に具体的な希望額を確認することにしました。
数日後、亮介さんに電話すると、息子は少し言いにくそうに答えました。
「できれば300万円くらいお願いできたらと思っていた」
信夫さんは、夫婦で話し合った結果を伝えました。
「結婚はうれしいし、応援したい。でも、私たちにもこれからの生活がある。援助できるのは100万円までだ」
亮介さんは驚いた様子でしたが、しばらくして「わかった。期待しすぎていたかもしれない」と答えました。
その後、亮介さんと真帆さんは購入予定のマンションについて再検討し、頭金を増やすことを前提にせず、住宅ローンの返済額や生活費から予算を決め直すことにしたそうです。
信夫さんは、息子とのやり取りをこう振り返ります。
「結婚を祝う気持ちは変わりません。ただ、私たちの貯蓄も、これからの暮らしに必要なお金なんです」
子どもの結婚や住宅購入に際して、親が援助を申し出ることはあるでしょう。しかし、退職後の家計では、毎月の収支に加え、住まいの維持費や将来の医療・介護費も考える必要があります。親子で援助の金額や目的を具体的に話し合うことが、それぞれの生活を守りながら新しい門出を祝うことにつながります。
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