「前は食べられたのに…」娘が知らなかった89歳母の変化
「最近、お母さまは水分を取るときにも、時々むせることがあるんです」
職員は、芳江さんの食事の様子について説明を続けました。食事中にせき込む回数が増えていたため、施設では看護職員とも情報を共有し、食事の形態や介助方法を確認していたそうです。
「今後の食事について、必要に応じて医療職にも相談する予定です。カステラについても、確認が済むまではお渡しせずに保管しています」
智恵さんは、母親が好きなものを食べられなくなるかもしれないことに、寂しさを感じました。
「母はいつも『ここのご飯はおいしいよ』と言っていたので、食事で困っているなんて思わなかったんです」
数日後、智恵さんは施設を訪れ、職員から改めて説明を受けました。芳江さんは最近、食事に以前より時間がかかるようになり、飲み物も一度にたくさん飲まないよう見守っているとのことでした。
「年齢を考えれば、変化があってもおかしくないんですよね。でも、私の中では、母はずっと甘いものが大好きで、何でも食べられる人のままだったんです」
厚生労働省『令和6年社会福祉施設等調査』によると、2024年10月時点の有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅を除く)は全国に1万8,460施設あり、前年から627施設増加しています。高齢者が施設で生活する機会が広がるなか、家族と施設職員との情報共有も重要になります。
その日の面会で、智恵さんは母親に尋ねました。
「お母さん、最近、ご飯を食べるときにむせることがあるんだって?」
芳江さんは少し考えてから答えました。
「そうね。たまに、うまく飲み込めないときがあるのよ」
「私、知らなかった。何か困っていることがあったら、教えてね」
すると芳江さんは、いつものように笑いました。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ここでは皆さんが見てくださるから」
智恵さんは、持参したカステラをまだ渡せていないことも伝えました。
「せっかく買ってきたのに、ごめんね。食べられるか確認してもらっているところなの」
「そうなの。じゃあ、楽しみに待っているわ」
その言葉を聞き、智恵さんは母親が好物を楽しみにする気持ちも大切にしたいと思ったそうです。
「食べられないと決めつけるのも違うと思うんです。安全に食べられる方法があるなら、相談してみたいですね」
智恵さんは今後、差し入れをする際には事前に施設へ確認し、母親の食事の状態についても定期的に尋ねることにしました。
高齢者施設では、入居者の健康状態や飲み込む力に応じて、持ち込み食品の扱いを判断する場合があります。好物を届けたいという家族の思いを生かすためにも、食事の変化を職員と共有し、安全に楽しめる方法を相談することが大切でしょう。
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