「寒くないの?」娘が気になった父の返事
「まだ暖房はつけてないよ。そんなに寒くないから」
10月下旬、77歳の父・茂さん(仮名)に電話をかけた美紀さん(49歳・仮名)は、その返事に違和感を覚えました。
茂さんは東北地方の雪が多い地域で一人暮らしをしています。妻を6年前に亡くし、現在は月約13万円の年金で生活しています。
美紀さんは関東地方に住んでおり、実家に帰るのは年に数回。それでも、週に一度は父に電話をかけていました。
「父は昔から寒がりなんです。10月になれば、朝晩は必ずストーブをつけていた人でした」
ところが、この日の電話では、茂さんは暖房を使っていないと言います。
「そっちはもう朝、かなり冷えるんじゃないの?」
「まあ、少しは冷えるけどな。厚着すれば大丈夫だよ」
美紀さんは、父の声がいつもより少し鼻にかかっていることにも気づきました。
「風邪でもひいた?」
「いや、何でもない。ちょっと喉が変なだけだ」
その後も話を続けましたが、茂さんは何度かせき込み、いつもより早く電話を切りたがりました。美紀さんは気になりながらも、父が大丈夫と言うので、それ以上は尋ねませんでした。
しかし数日後、再び電話をかけると、茂さんはまだ暖房をつけていませんでした。
「そんなに我慢しなくてもいいでしょう。灯油は買ってあるの?」
「去年の残りが少しあるから、大丈夫だよ」
「じゃあ、どうしてつけないの?」
「今から使ってたら、真冬に灯油代がかかるだろう」
その言葉を聞いて、美紀さんは初めて父がお金を気にしているのではないかと思いました。
茂さんは長年会社員として働き、定年後も数年間は再雇用で勤務していました。持ち家で住宅ローンもなく、年金も月13万円あるため、美紀さんは父が生活に困っているとは考えていなかったそうです。
「父は節約家でしたけど、暖房まで我慢するような人ではなかったんです」
美紀さんが生活費について尋ねても、茂さんは「ちゃんとやっている」と繰り返すだけでした。心配になった美紀さんは、その週末、実家を訪ねることにしました。
玄関に入ると、家の中は思っていた以上に冷えていました。居間の温度計は14度。茂さんは厚手の上着を着込み、膝に毛布をかけてテレビを見ていました。
「お父さん、こんなに寒いところにいたの?」
「昼間は日が入るから、まだいいんだよ」
美紀さんはストーブをつけようとしましたが、茂さんは「灯油がもったいない」と止めました。その様子を見て、美紀さんは父が暖房を控えていた理由を確かめようと思ったのです。
