「家で食べれば安いから」74歳妻が諦めた小さな楽しみ
「外食なんてもったいない。家で食べれば、半分以下で済むだろう」
夫のこの言葉を、74歳の千鶴さん(仮名)は何度も聞いてきました。
千鶴さんは77歳の夫・昭彦さん(仮名)と2人暮らし。夫婦の年金収入は合わせて月約25万円で、住宅ローンを完済した一戸建てに住んでいます。
昭彦さんが72歳で仕事を完全に辞めた5年前、夫婦には約4,500万円の貯蓄がありました。現役時代から堅実に暮らし、退職金もほとんど使わずに残していたため、老後の生活費に困る状況ではありませんでした。
それでも昭彦さんは、支出を増やすことに強い抵抗があったといいます。
「夫は若い頃から節約家でした。無駄遣いをしないおかげで貯金ができたので、私も感謝していたんです」
ただ千鶴さんには、夫の退職後に楽しみにしていたことがありました。それは、2人で外食をすることです。
現役時代の昭彦さんは仕事が忙しく、休日も家で過ごすことが多かったそうです。
「退職したら、近所のお店をいろいろ回りたいと思っていました。高級なお店じゃなくていいんです。たまには料理を作らず、夫とゆっくり食事をしたかったんですよ」
ある日、千鶴さんは近くにできた和食店のランチを提案しました。1人2,500円ほどの御膳で、以前から気になっていた店でした。
ところが、昭彦さんの返事はいつもと同じでした。
「2人で5,000円もするのか。それなら家で刺身でも買って食べよう」
結局、その日も千鶴さんが昼食を用意しました。
「私が食事を作るのは当たり前で、外食は贅沢だと思っていたんでしょうね」
旅行についても同様でした。温泉旅館に1泊しようと誘っても、昭彦さんは宿泊費を聞くと「日帰りで十分だ」と言います。
千鶴さんは何度か誘ったものの、次第に自分から提案することが減っていきました。
「無理に連れて行っても、夫が楽しめないなら仕方ないと思っていました」
夫婦はそれまでと変わらず、買い物をして自宅で食事を取り、テレビを見て過ごす日々を続けました。
ところが退職から5年が過ぎた頃、昭彦さんの体調に変化が現れます。
