「最近、全然帰ってこないわね」母が知らなかった息子の不満
72歳の佳代子さん(仮名)は、同い年の夫・弘志さん(仮名)と2人暮らし。夫婦の年金収入は合わせて月約19万円で、住宅ローンを完済した一戸建てに住んでいます。
一人息子の亮介さん(43歳・仮名)は、妻と小学生の娘との3人暮らし。車で40分ほどの場所に住んでいます。
以前は月に1回ほど家族で実家を訪れ、昼食を囲んだり、孫と遊んだりしていました。
ところが1年ほど前から息子一家が訪ねてくる回数は減り、最近では正月以来、顔を合わせていません。
「仕事が忙しいのかと思っていました。でも、電話しても『また今度』ばかりで。孫の顔も見られなくなってしまったんです」
ある日、佳代子さんは亮介さんに電話をかけました。
「今度の日曜日、みんなでお昼でも食べに来ない?」
「ごめん。今週は家でゆっくりしたいんだ」
「先月もそう言っていたじゃない。そんなに忙しいの?」
亮介さんは少し黙ったあと、「母さん、もう限界なんだ」と言いました。
思いがけない言葉に、佳代子さんは戸惑いました。
「何が限界なの?」
「実家に帰るたびに、いろいろ言われるのがしんどいんだよ」
佳代子さんには心当たりがありませんでした。
亮介さんによると、実家を訪れるたびに、佳代子さんは孫の習い事や学校の成績、息子夫婦の暮らし方について意見を言っていたそうです。
「塾には行かせないの?」「もう少しちゃんとしたものを食べさせたら?」。佳代子さんにとっては、何気ない会話のつもりでした。
「心配だから言っていただけよ。そんなに嫌だったの?」
「毎回言われると、こっちも疲れるんだよ。妻も、帰ってから落ち込むことがあったし」
佳代子さんは、息子の妻がそんなふうに感じていたことを知りませんでした。
「お嫁さんは、いつも笑って話してくれていたんです。嫌な思いをさせているなんて、考えもしませんでした」
さらに亮介さんは、父親の弘志さんについても話しました。
「父さんが何も言わないのも、正直つらかった」
佳代子さんは驚きました。
「お父さんまで? どうして?」
「母さんが妻にいろいろ言っていても、父さんは黙ってテレビを見てるだけだっただろう」
亮介さんは、実家に帰るたびに妻が気を使い、自分も母親の言葉を取り繕うことに疲れていたと打ち明けました。
「帰省する前から、また何か言われるんじゃないかって考えるようになったんだ」
電話を切ったあと、佳代子さんは夫に息子の話を伝えました。弘志さんはしばらく考え込んでから、静かに言いました。
「俺も、少し気になっていたんだ。お前は心配して言っているんだろうけど、亮介たちには余計なお世話だったのかもしれないな」
