「土曜日、またお願いできる?」半年間続いた娘からの頼み事
「今週末は予定があるの。ごめんね」
70歳の久美子さん(仮名)は、娘からの電話にそう答えました。
実際には、特別な予定などありません。久美子さんが娘の頼みを断るためについた、初めての嘘でした。
「何も予定がないって言ったら、また孫を預かることになると思って。どうしても、一日ゆっくり休みたかったんです」
久美子さんは夫と2人暮らし。車で15分ほどの場所には、42歳の娘・奈緒さん(仮名)が夫と6歳、3歳の子どもを育てながら暮らしています。
半年ほど前、奈緒さんが土曜日も仕事に出ることになり、久美子さんに孫を預かってほしいと相談してきました。奈緒さんの夫も土曜日は仕事が入ることが多く、夫婦で勤務が重なる日があったのです。
「最初は月に2回くらいって話だったんです。困っているなら助けてあげたいと思いました」
ところが、次第に毎週土曜日の朝から夕方まで、2人の孫を預かるようになりました。
午前8時半頃、奈緒さんが子どもたちを連れてきます。昼食やおやつを用意し、公園へ連れて行き、家の中ではおもちゃで遊ぶ。午後5時頃に迎えが来るまで、久美子さんはほとんど休めません。
「下の子はまだ3歳ですから、目が離せません。上の子も外で遊びたがるし、2人を連れて歩くだけでも大変なんです」
夫も孫たちと遊んでくれますが、食事の支度や着替え、トイレの付き添いなどは、久美子さんが中心になっていました。
預かる日の食費やおやつ代は娘が負担してくれるものの、久美子さんが気にしていたのはお金ではありません。
「土曜日に孫を預かると、日曜日は疲れて何もしたくなくなるんです。友達から誘われても、断ることが増えました」
以前は週末に夫と出かけたり、友人と食事をしたりしていました。しかし、半年ほどの間に、そうした機会はほとんどなくなっていたといいます。
ある金曜日、奈緒さんからいつものように電話がかかってきました。
「お母さん、明日もお願いしていい?」
久美子さんは少し迷った末、初めて断りました。
「今週末は予定があるの」
「そうなんだ。じゃあ、別の方法を考えるね」
奈緒さんはそれ以上聞かず、電話を切りました。久美子さんはほっとしたものの、胸の奥には後ろめたさが残ったそうです。
