無理なく援助に回せるお金の限界
筆者は、次の3つを提案しました。
1.父親の年金と預金で賄える施設を探す
親の介護費は、まず親自身の年金と資産で賄うのが基本です。茂さんは要介護3以上と認定されれば、特別養護老人ホーム(特養)に申し込めます。所得や預金が一定以下の人は、市区町村に「負担限度額認定」を申請すると、食費と居住費が軽くなります。
茂さんの場合、多床室なら介護サービスの自己負担を含めても月5万円前後に収まる可能性があり、年金の範囲で暮らせる見込みも立つでしょう。入所までのあいだは、リハビリを受けられる介護老人保健施設などを利用し、不足分は茂さんの預金から充てることに。
2.きょうだいで「お金」と「時間」の分担を決める
民法には、親子やきょうだいが互いに扶養する義務が定められています。ただし、親への扶養は、自分たちの生活を維持したうえで余力の範囲で行うものと考えられています。
また、久美子さんはこれまで、お金ではなく「時間」を出して父親を支えてきました。和彦さんがお金を出す一方で、久美子さんの負担をどう減らすのか。それも含めて話し合う必要があります。
3.夫婦の「守るお金」を先に決める
援助の額は、夫婦が自分たちの老後のために守るべきお金を確保したうえで決めます。生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(2024年度)」によると、介護にかかった費用は一時費用が平均47.2万円、月額が平均9.0万円、介護期間の平均は55.0ヵ月です。
これをもとに計算すると1人約540万円、夫婦で約1,100万円です。これに90歳までの赤字約1,500万円を加えた額を資産から差し引くと、残りは300万円弱になります。これが、中村さん夫婦が無理なく援助に回せるお金でした。月3万円なら、8年近く続けられる計算です。
「家族に旅行を満喫したことを伝えたことで、これからについて話すきっかけになったと思えばよいのではないでしょうか」。筆者は中村さん夫婦にそう告げました。
2度目の家族会議
2度目の家族会議で、和彦さんは試算の結果を正直に伝え、まず頭を下げました。
「これまで父さんのことを全部任せきりにして、悪かった」
久美子さんは小さくうなずいてくれたそうです。要介護3の認定を受けた茂さんは特養に申し込み、和彦さんは、茂さんの医療費や日用品代の足しとして月3万円を援助し、あわせて月に1度は実家に帰って手続きや見舞いを引き受けることに。
「使っていいお金と、残しておくお金をわけていなかった。それがわかって、ようやく今後の対策が見えてきました」
由美子さんはそう話すと、ようやく少し表情を緩めました。
波多 勇気
波多FP事務所 代表
ファイナンシャルプランナー
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