今回は、 銀行の「押し込み融資」依頼の断り方を見ていきます。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。

「3月31日だけ、3千万円借りてください」

金融庁から銀行に対しては、
「歩積両建となる融資を行ってはならない。」
「資金需要のない融資をお願いしてはならない。」
となっています。

 

しかし、3月の年度末にはやはり、
あちらこちらから、そんなことはお構いなしの声が、
聞こえてくるのです。

 

8月が決算月の会社のことです。
“当座貸し越し枠のある銀行から、3月31日だけ、
3千万円借りてください!って、銀行がお願いにきました!”
その銀行との取引では、普段の借入はすでになくなっており、
当座貸し越し枠だけが、残っていたのです。
結局、交渉後、1千万円を3月31日に借りて、
4月1日に返すことになったそうです。
当然、1日の協力とはいえ、見返りを得ています。

課せられたノルマのためだけのムダな融資

“どこよりもあつかましい銀行がありました!”
という声もありました。
「○千万円を年度末の1週間だけ、借りていただけませんか!
で、その○千万円を、当行でなく、他の銀行の口座に振り込んでください!」
と言ってきた銀行があったそうです。
つまり、借りてほしいけれど、自分の銀行に置かれると、
預貸率が変わらないので、よその銀行に、というわけです。
“他の取引銀行は、そこまであつかましいこと言わないよ。”
と言って、その経営者は追い返したそうです。

 

“支店長が過去の失態を嘆いていました!”
という声もありました。
「年度末に20億借りてもらい、
そのまま普通預金口座に入れてもらって喜んでいたら、
“そんなことしたら、
ウチの自己資本比率がほんの少しでも下がるじゃないか!”
と本部から怒鳴られ、ギリギリの時期に、
また減額のお願いをしたことがあります。」
と、今は支店長となっている方が、語っていたそうです。

 

銀行では、現預金が在庫です。
融資をすれば、その分、在庫が貸付金に変わります。
で、その貸付金をそのまま同じ銀行で預かれば、
またその分、在庫が増えます。
つまり、総資産が増えます。
在庫が増えて総資産が増えただけなら当然、
自己資本比率は少し下がります。
なのでその支店長は、無理な年度末貸付は、
銀行にとってもプラスはない、とわかっているのです。
なのに、その支店長でさえ、融資額のノルマを果たしたいがため、
「いくらか協力をお願いできませんか?」と言ってくるのです。

 

支店や個人に課せられたノルマのためだけに、
この年度末、数多くのムダな融資が行われています。
その作業量たるや、膨大だと思います。
銀行側にも企業側にも、そのことで動く実務者はいるのです。
押し込み融資は結局、双方の生産性を損なうだけです。
メリットのない押し込み融資依頼は、きっぱり断るべきなのです。

本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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