医療者同士、医療者と警察との間で生じる「認識の違い」
ところが実際の現場では、医療者同士、あるいは医療者と警察との間でも、こうした問題について認識が一致しないことがあります。2つの例を紹介します。
【事例1】家族と同居のがん終末期患者の例
がんの終末期で、私たちが継続して訪問診療を行い、今日、明日にでも亡くなる可能性がある患者さんが、夜中に突然呼吸を止めました。動転したご家族が救急車を呼び、救急病院へ搬送されました。
私たちは搬送先に、がんの終末期であり、亡くなることが予想されていた患者さんであることを説明し、必要に応じて診療情報提供書も送ります。それでも異状死として警察に届け出られ、検視などが行われることがあります。
救急搬送されれば、明らかに死亡している場合を除いて救急隊による心肺蘇生が行われ、病院でも蘇生処置が続けられます。その場合、死亡時刻をどのように扱うのかという問題も生じます。
さらに、それまでの診療経過や在宅医からの情報から、がんの進行による自然な経過の中で亡くなったと考えられる場合でも、警察に届け出られることがあります。その結果、ご家族は大切な人を亡くした直後に、警察による確認や事情聴取などを受けることになります。
【事例2】独居のがん終末期患者の例
その方は独居で、前日の診察でも死期が迫っていると判断していました。翌日訪問すると玄関には鍵がかかっており、開いていた窓から見ると、すでに呼吸をしていないようでした。
遠方に住むご子息に連絡しましたが、すぐには来られません。警察にも連絡しましたが到着まで時間がかかるとのことで、私たちはいったんその場を離れました。
ところが、その間に警察が到着し、ご遺体を警察署に移して検視の手続きを始めていました。
私たちは警察署へ出向き、継続して診療していたがん終末期の患者さんで、前日にも死期が迫っていると判断していたことを説明しました。しかし、警察側の判断は変わりませんでした。
事例2のケースにおいて特に気になったのが「訪問診療医が呼吸や心拍が停止する瞬間に立ち会っていなければ、異状死として扱う」という趣旨の説明でした。
しかし、医師が死亡の瞬間に立ち会っていなかったという理由だけで、直ちに異状死になるわけではありません。在宅医療では、医師が死亡の瞬間に立ち会わないことの方がむしろ一般的です。
もちろん、警察には犯罪による死亡を見逃してはならないという重要な役割があります。一方で、自宅で最期を迎える人が増えていく中では、在宅医療における看取りの実際について、在宅医療者だけでなく、救急医療に携わる医療者や警察を含めた関係者が正確な知識を共有していくことが、ますます重要になるのではないでしょうか。
野末 睦
医師
医療法人 あい友会 理事長
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