(画像はイメージです/PIXTA)

在宅医療には、病院医療とは少し異なる、在宅医療ならではの法律上の問題や課題があります。これらを理解しておくことは、患者さんやご家族に安心して医療を受けていただき、医療者自身も安全に診療を進めていくうえで重要です。今回はその中でも、在宅医療の現場でしばしば直面する「死」をめぐる法律上の問題を取り上げます。医療法人あい友会理事長の野末睦医師が解説します。

死亡診断・死亡時刻をめぐる問題

日本では、脳死下での臓器提供など特殊な場合を除き、一般的な死亡について、法律が一律の具体的な判定基準を定めているわけではありません。

 

実際の医療現場では、医師が呼吸や心拍、瞳孔の状態などを確認し、医学的に死亡したと判断します。そして、その死亡を医学的・法律的に証明するものが死亡診断書、あるいは死体検案書です。

 

死亡診断書には、死亡した年月日時分を記載します。ここで重要なのは「医師が死亡を確認した時刻」と「実際に死亡したと判断される時刻」は、必ずしも同じではないということです。

 

例えば、午前3時にご家族が「呼吸が止まった」と気づき、医師が午前5時に訪問したとします。この場合、医師はご家族の話や患者さんの状態などから、実際に亡くなった時刻を判断することになります。

 

しかし、ここに在宅医療特有の難しさがあります。ご家族が患者さんをずっと観察していたとは限りません。「3時頃に見たら呼吸をしていなかった」という場合、実際にはもっと前に亡くなっていた可能性があります。死後の身体所見から死亡時刻を推定することもできますが、数時間単位で正確に特定することは必ずしも容易ではありません。

 

さらに死亡時刻は、訪問看護などの保険上の取り扱いにも関係します。訪問看護のターミナルケアでは、訪問看護記録に死亡時刻を記録することが求められています。そのため実際の現場では、医師が先に到着していても、「訪問看護師が到着してから死亡診断をしてください」とお願いされることがあります。

 

もちろん、死亡診断を意図的に遅らせるという意味ではありません。しかし、実際の死亡時刻を正確に特定することが難しい一方で、一つの「死亡時刻」を決めなければならず、その時刻が周辺の医療・看護サービスにも関係するということに、在宅医療における死亡時刻の難しさがあります。

警察への「異状死」の届け出について

もう1つ重要なのが、いわゆる「異状死」の届出です。

 

医師法第21条には、「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と定められています。

 

ただし、「異状」とは何かについて、法律上の具体的な定義があるわけではありません。また、在宅で亡くなったこと、医師が死亡の瞬間に立ち会っていなかったこと、最後の診察から24時間以上経過していたことだけを理由に、直ちに警察への届出が必要になるわけでもありません。生前に診療していた傷病に関連する死亡と判断できれば、死亡後に改めて診察したうえで死亡診断書を交付することができます。

 

2004年の最高裁判決※では、医師法第21条にいう「検案」とは、「医師が死因等を判定するために死体の外表を検査すること」とされています。ただし、外表に明らかな傷がなければ、どのような場合でも届出が不要という意味ではありません。死亡までの経緯や発見された状況なども重要になります。

 

※ 裁判所「最高裁判所判例(都立広尾病院事件)」 (https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-50058.pdf)

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