自然素材がマンションに使われない理由⑧~販売側の葛藤

前回に引き続き、自然素材がマンションに使われない理由を見ていきます。今回は、「販売側の葛藤」を取り上げます。

顧客側の理解が得られにくい「自然素材の短所」

前回の続きです。

 

こんな行き詰まった議論を重ねていると、自然素材を内装材に使うことに対する社内の考えが、次第にまとまらなくなっていきました。事業企画部の視点からは良いものを使い、手間暇かけてつくりたいという要求が高まり、「良いものだから高く売ってくれ」と、原価の販売価格への転嫁を営業部に期待します。

 

しかし当時の営業部の実力は自然素材の「気持ち良い」という体感を伝える術に乏しく、今も続く新建材主流のマンション市場では、「なぜ自然素材を使うのか?」という基本的なお客様の理解を得るにも苦労する始末。そんな気分で「はい、わかりました!」と販売価格に上乗せできる状況ではなかったのです。

 

また、マンションを契約する際に発行する重要事項説明の作成や提示にも頭を悩ませていました。自然素材は、割れや反りが少なからず生じるものです。そのため、物件の契約前に自然素材の長所だけでなく、その短所も十分に理解して頂く必要があります。

 

しかし、営業部は今となっては愛しい短所も、それを木の特性であり長所の裏返しと捉えることはできず、「できれば言いたくない・・・」という、新建材から新しい自然素材に変わることに対する恐怖ともいえる感情が拭い切れないでいたのです。

 

新建材のマンションのモデルルームを見慣れたお客様は、注文住宅のお客様と違って建材選定の過程を経ないわけですから、新建材の仕上がりにはない自然素材ならではの僅かな傷も指摘したくなるのは無理はありません。

クレームが怖い…社内の人間関係まで複雑に

使用する自然素材についても、社内での葛藤がありました。たとえば、鈴木はヒノキの床材を標準化することを要求していました。ヒノキは柔らかいので肌触りが非常に良く、さらに調湿効果もトップクラスなのです。ところが樋口は首を縦に振りませんでした。

 

「単純に勇気がありませんでした。ちょうど、ヒノキの床を有料オプションでご選択していただいたお客様からの『細かな傷が気になる』というご指摘に、建築技術部が苦労している最中だったのです。ヒノキは少し爪を当てただけでも傷が付きます。戸建ての注文住宅であれば、建材を選定するという行為自体が大きな価値ですので、ヒノキのメリットもデメリットも理解してもらったうえで採用することができます。むしろ『傷がつきやすい』ことを、デメリットではなく『特徴』と理解していただける方にお勧めしてきた建材です。しかし、不特定多数に向けた分譲マンションの販売においては、建材の説明は多数ある説明事項のほんの一部にすぎません。ヒノキの良い部分だけを理解して契約された方が、あとでその傷つきやすさに驚いてクレームになる、ということが怖くてとても使えなかったのです」(樋口)

 

結局その物件では、今まで使っていたカバよりも調湿効果が高く、傷つきにくい広葉樹のクリを採用しました。

 

「クリとはいえ、採用は怖かったですよ。いい材料だということはわかっていても使用実績がない。とにかく不安でした。ここでは予期せぬ伸縮に対応するため板幅を普段の100㎜ではなく75㎜にしました。張り手間が今まで以上に掛かることは承知の上です。張ってもらった職人さんにはいまでも『あれは面倒だった』と語り草にされています」(樋口)

 

自然素材を採用することが、各担当者の固有の葛藤を生み出し、各部署の利益相反が表面化し、社内の人間関係にまで困惑を与える出来事が繰り返されるにつれて、自然素材を採用することの難しさを知り、新築マンションに使われない理由を痛感したのです。

 

ちなみに現在はここまで侃々諤々(かんかんがくがく)としたやり取りはありませんが、今は私たち全員が、自然素材の良さを熟知し、愛着を持つまでに至りました。問題はそのメリットとデメリットのバランスをどのように取るかでしょう。

 

これは私たちの永遠のテーマといえます。そのことをここ数年で理解したため、今ではお互いの立場を尊重したうえで紳士的な議論ができるようになったのです(と思います)。

株式会社リブラン 代表取締役

1967年、東京生まれ。株式会社大京にて分譲マンション事業用地の仕入を担当。その後、1992年、株式会社リブランへ入社し、2002年、同社代表取締役に就任する。マーケットシェアを奪い合う分譲マンション業界で、同業他社とは同じ土俵で勝負しない経営スタイルを堅持。24時間、音楽漬けを可能とするマンション「ミュージション」の分譲、賃貸事業を行い、新たなマーケットの創造を行う。

著者紹介

連載なぜマンションの内装には「自然素材」が使われないのか?

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか』から抜粋したものです。その後の法制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか

なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか

鈴木 雄二

幻冬舎メディアコンサルティング

注文住宅や、中古住宅のフルリフォームでは、当たり前に使われる、無垢フローリングや、珪藻土塗りの壁などの自然素材。 しかし、新築マンションだけが調湿効果の少ない合板フローリングやビニールクロスなどの新建材で作ら…

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