前回に引き続き、自然素材がマンションに使われない理由を見ていきます。今回は、「困難な素材選定」という要因を取り上げます。

自然素材の使用はそもそも採算が合いにくいが…

前回の続きです。

 

理由⑦ 素材選定はとにかくもめる

これまで説明してきた通り、マンションで自然素材を使用することは、非常に採算が合いにくく、かつ効率的ではありません。その理由をまとめると以下のようなものがあります。

 

●部材そのものの単価が高い

●扱いが面倒(工期が延びる)

●施工の手間がかかる(手間賃が上がる)

●品質にばらつきがあるため返品率が高い(工期が延びる。返品した分も部材費がかかる場合がある)

●施工後もクレームなどで手離れが悪い(部材費、手間賃がかかる)

 

これらは、仕入れ先や工事を請け負うゼネコンへの支払いとして金額で表せます。しかし、約10年間自然素材に挑戦してきて実感したのは、金額で表せる部分だけではありませんでした。

施工者側の「社内でもめる」ケースも

「とにかく社内でもめるのです」と樋口は自然素材導入時を振り返ります。私たちの会社はマンションの部材を決める際は、事業企画部、建築技術部(工事管理、アフターサービス)、営業部、の3部門がかかわります。自然素材を選ぶ側、お客様に説明する側、クレーム対応する側の立場と主張が交錯し、さまざまな意見が乱れ出るのです。こうなると社内の雰囲気は険悪になっていきます。

 

「クレームになるから、『割れますよ』『反りますよ』『傷がつきますよ』といったデメリットをお客様に先に言え」(建築技術部)

          ↓

「だったら“何㎜以下の割れ・傷は保証外”という基準を設けてください」(営業部)

          ↓

「クレームはお客様の感覚に左右される。数字で基準を示すことはできない」(建築技術部)

          ↓

「それなら事業企画部の方で傷のつかない肌触りがよく調湿効果の高い素材を選んでください」(営業部)

          ↓

「そんな素材があるわけないでしょ!」(事業企画部)

          ↓

「自然素材を使うなら、営業部と事業企画部でクレーム対応してくれ!」(建築技術部)

 

お恥ずかしい限りですが、部材を決定する会議のたびに、こんな激しいやり取りが長時間続き、お互いに口をきかない状態にまで突き進んでいくのです。新建材でマンションをつくっていた時には全く必要のない時間でした。自然素材の使用は採算性が悪いだけでなく、社内の雰囲気を険悪にし、業務効率までも低下させるのです。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか』から抜粋したものです。その後の法制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか

なぜ新築マンションには自然素材が使われないのか

鈴木 雄二

幻冬舎メディアコンサルティング

注文住宅や、中古住宅のフルリフォームでは、当たり前に使われる、無垢フローリングや、珪藻土塗りの壁などの自然素材。 しかし、新築マンションだけが調湿効果の少ない合板フローリングやビニールクロスなどの新建材で作ら…

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