「この家賃を払い続けるのは無理」夫婦が申し込んだ市営住宅
「このままここに住むのは無理なんじゃないか」
息子からのメッセージをきっかけに、正夫さんが初めてそう口にしました。
美智子さんも以前から、市の広報で市営住宅の募集を見かけていました。ただ、「団地に引っ越すほどではない」と考え、詳しく調べたことはありませんでした。
夫婦で市役所に相談すると、収入などの条件を満たしており、市営住宅に申し込めることが分かりました。
公営住宅は、公営住宅法に基づき、住宅に困窮する低額所得者に低廉な家賃で供給する制度です。入居資格や収入基準、家賃の算定方法、優先入居の扱いなどは自治体によって異なります。国土交通省も、高齢者世帯などについて、地域の実情に応じて優先入居の対象とすることが可能だとしています。
1度目の応募は落選しました。それでも翌年、別の団地に申し込み、今度は入居が決まりました。
築年数は経っていますが、2DKで夫婦2人には十分な広さです。家賃は所得などに応じて算定され、夫婦の場合は月2万円台になりました。
「新しい家じゃないし、前より駅からも遠い。でも、家賃の日を怖がらなくてよくなったんです」
引っ越し後、家賃だけで毎月4万円以上の負担が減りました。美智子さんは食費や光熱費も改めて整理しました。
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、夫婦のみの世帯は31.8%、単独世帯は32.7%です。さらに、65歳以上の人だけで構成される世帯は62.3%に達しています。高齢者が子世帯と同居せず、自分たちだけで生活することは珍しい形ではありません。
健太さんとの関係が途切れたわけでもありません。引っ越しから数ヵ月後、健太さん一家が新居を訪れました。
「狭くなったけど、前より安心だよ」
そう話す母に、健太さんは「それならよかった」と答えたそうです。
子どもが親を支えること自体に問題があるわけではありません。ただ、一時的な援助がいつの間にか家計を成り立たせる前提になれば、支える側にも限界があります。
収入を大きく増やすことが難しい高齢期には、住居費を含めた固定費を見直すことも選択肢の一つです。美智子さん夫婦にとって市営住宅への住み替えは、息子との関係を断つためではなく、自分たちの収入で暮らしを組み直すための選択でした。
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