「3,500万円ある」耳を疑う事実
「貯金と投資を合わせて、3,500万円くらいある。年収も600万円くらいになった」
そう告白した有志さんに、浩一さんは耳を疑いました。
「じゃあ、今まで『お金がない』って言ってたのは……?」
「ないんじゃない。使いたくないんだよ」
「どういう意味だ? お金があるなら明日にでも出ていきなさい」
しかし、有志さんは首を縦に振りませんでした。
有志さんは、“40代でFIRE(早期退職)”という目標を持っており、収入の多くを貯蓄と投資に回しているといいます。実家暮らしを続ければ、家賃や光熱費などを抑えられ、その分だけ資産形成を早められるという考えです。
さらに「同居は自分だけのためじゃない」と続けたのです。
「同居は、年金暮らしになる親にとってもメリット」
「親父たちが年金暮らしになったら余計に、俺がここにいたほうが、お互いにとっていいと思うんだ。毎月5万円はちゃんと渡し続けるし、いざとなったら俺のお金で父さん・母さんを助けられる。それに、介護になったとき俺がいたら楽だろ?」
「介護って……まだそんな話をする年じゃないぞ」
「いつ何があるかわからないじゃん。別々に暮らして、いざ介護が必要になったときに慌てるより、俺が家にいたほうがいいと思うんだ」
たしかに、息子が近くにいれば、将来、病院への付き添いや買い物などを頼めるかもしれない。別々に暮らしていれば、何かあったときに駆けつけるだけでも一苦労です。
「金銭的にも助けてあげられる」という言葉も、思いがけないものでした。年金見込み額は夫婦で月24万円ほど、貯金は1,800万円で、「まったく不安がない」という水準とは思っていなかったからです。
息子なりに親のことを考えていたのか、と思う一方で、妻からは「それって本当に私たちのためなのかしら?」という言葉もあったといいます。浩一さん自身、その疑問はありました。
「確かに、息子がそばにいてくれるのは心強い。でも、38歳にもなってそれでいいのか。FIREをしたいがために、将来の介護を理由にしているだけのようにも感じます」
「介護のため」と言いながら、実際には家賃を浮かせたいだけなのか。それとも、本当に親の将来を考えているのか。あるいは、その両方なのか――。
「家を出て行ってほしい」という思いと、「そばにいてくれたほうが安心」という思い。その間で、浩一さん夫婦の気持ちは揺れ始めていました。
