(※写真はイメージです/PIXTA)

国税庁が有識者会議で示した株価圧縮スキームは、非上場株式の評価が「安すぎる」という36年来の問題を、単なる計算式の修正では済まない論点にまで押し広げた。類似業種比準方式を残すか/廃止するかという二択ではなく、企業価値の評価と事業承継への政策的支援をどう切り分けるか――ドイツの制度や日本の小規模宅地等の特例を手がかりに、見直しの方向性とオーナー経営者が今後注視すべきポイントを整理する。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

類似業種比準方式から何が変わるのか

国税庁は第5回「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で、非上場株式の新たな評価方法について、具体的な「たたき台」を示した。

 

報道によれば、今回のたたき台では、現行のように会社を大・中・小会社に区分し、類似する上場会社の株価を基礎として評価する仕組みを見直し、帳簿上の純資産額をベースにしながら、過去数年間の利益など収益力も反映する方向が示された。

 

現行の類似業種比準方式を前提とした評価体系そのものを見直す内容であり、1964年に現在の財産評価基本通達が制定されて以来の、大きな見直しにつながる可能性がある。

 

ポイントは、単純に「類似業種比準方式を廃止して純資産価額方式に置き換える」という話ではないことだ。現行の純資産価額方式は、会社の資産・負債を基礎として株式価値を算定する。

 

一方、今回示された方向では、純資産だけでなく、過去数年間の収益力も評価に取り込む。会社が現在どれだけの財産を持っているのかだけでなく、その財産を使ってどれだけ利益を生み出しているのかも見るという発想である。

 

これは、類似する上場会社の株価を基礎とする現行方式から、企業そのものの財産と収益力をより重視する評価へと軸足を移すものともいえる。

 

もっとも、ここで注意しなければならないのは、8月20日に示されたものがあくまで「たたき台」だという点だ。国税庁は第4回会合の段階で、類似業種比準方式を廃止すると決定したわけではないと説明しており、今回の案についても、今後の議論によって具体的な枠組みが変わる可能性がある。さらに、純資産価額を評価額の下限とすることも前提としていない。

 

また、税負担への影響についても、現時点で最終的な答えが出たわけではない。国税庁は、評価方法の枠組みについて議論を深め、具体的な方向性が見えた段階で、実態調査のデータを用いたシミュレーションを行う考えを示している。

 

つまり今回のたたき台が示したのは、「株価を上げるための新しい計算式」そのものというより、非上場株式を何を基準に評価するのかという考え方の転換である。

 

そして、この転換が進めば、冒頭で見た「類似業種比準方式=悪なのか」という問いも変わってくる。

 

問題は、類似業種比準方式を残すか廃止するかだけではない。純資産、収益力、企業規模、株主の属性など、非上場企業の価値をどのような要素から構成するのか。そして、その結果として税負担が増える企業、とりわけ事業承継を控える中小企業にどのような配慮を行うのか。

 

8月20日のたたき台は、その議論を具体的な制度設計の段階へ進める第一歩になったといえそうだ。

オーナー経営者は「株価が上がるか」だけを見てはいけない

今後、たたき台をもとに具体的な算定方法の議論が進めば、非上場会社のオーナー経営者にとっては、これまで行ってきた自社株対策の前提が大きく変わる可能性がある。

 

特に注意したいのは、「新制度で株価が上がるか、下がるか」という一点のみに注視することである。重要なのは、むしろ以下のような点だ。

 

・自社株の評価方法がどう変わるのか
・類似業種比準方式は残るのか
・純資産価額方式の位置付けはどうなるのか
・配当還元方式はどう変わるのか
・事業承継税制との関係はどうなるのか
・既に組成している資産管理会社や株主構成に影響があるのか

 

とりわけ、これまで株価を下げることを前提に組織再編や株主構成の設計を行ってきた企業にとっては、制度変更によって過去の対策の意味合いが変わってくる可能性がある。

「安く評価する制度」から「適正に評価して別途支援する制度」へ?

1964年に財産評価基本通達が制定されてから、60年以上が経過した。

 

1990年の時点で、すでに国会では「類似業種比準方式による評価が安すぎるのではないか」という問題が指摘されていたものの、その後も裁判所は、評価通達による画一的な評価について、簡便性や公平性などの観点から一定の合理性を認めてきた。

 

しかし、こんにち企業価値評価の考え方は大きく変わり、M&A市場も発達した。さらに、国税庁が具体的な株価圧縮スキームを把握するようになったことで、単純な評価方式の問題にとどまらない局面に入っているのである。

 

今回の見直しは、36年前から積み残されてきた問題に対する、大きな転換点になる可能性がある。

 

理想的なのは、企業価値をできるだけ実態に即して評価すること。そして、事業承継については必要な政策的支援を別の制度として明確に行うこと。――これら二つの課題を両立させることだろう。ドイツの制度設計や、日本の小規模宅地等の特例は、その方向性を考える上での有効な示唆をもたらしてくれる。

 

はたして日本は、非上場株式を「安く評価することで事業承継を助ける」制度から、「企業価値は適正に評価し、事業承継は別の制度で支援する」仕組みへ転換できるのか。今回の見直しで問われているのは、単に類似業種比準方式を残すのか、廃止するのかという問題ではない。企業価値をどう測るのかという「評価」の問題と、事業承継をどう支えるのかという「政策」の問題を、どこまで切り分けられるのか。そこに今回の議論の本質がありそうだ。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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