年に5、6回の帰省…いつしか「当たり前」になったこと
「今週末、そっち帰るから」
金曜日の夜、長男の慎吾さん(仮名・39歳)から電話がありました。
母の佳代子さん(仮名・69歳)は、夫を7年前に亡くしてから一人暮らし。年金は月約18万円、預貯金は約1,600万円あり、住宅ローンを完済した戸建てで暮らしています。
慎吾さんは独身で、実家から新幹線で1時間半ほど離れた都市に住んでいます。会社員として働いており、生活に困っているわけではありません。それでも年に5、6回は実家へ帰り、金曜日の夜から日曜日まで過ごすのが恒例になっていました。
佳代子さんも、息子が帰ってくること自体は楽しみでした。
連絡が入れば、使っていない子ども部屋を掃除してシーツを替え、慎吾さんが好きな刺身や肉、ビールなどを買っておきます。朝は遅くまで寝かせておき、昼になれば食事を用意する。友人と飲みに出かけた夜には、帰宅するまでなんとなく気になって起きていることもありました。
「息子も実家に来ると、昔に戻るんでしょうね。私も私で、帰ってきたら何かしてあげなきゃと思っていました」
いつからか、費用も佳代子さんが負担するのが当たり前になっていました。
外食すれば佳代子さんが会計を済ませ、帰る際には「新幹線代も高いでしょう」と1万円を渡します。慎吾さんも以前は断っていましたが、次第に「ありがとう」と受け取るようになりました。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、60歳以上で今後優先的にお金を使いたいものとして「子や孫のための支出(学費、こづかい等)」を挙げた人は25.8%でした。一方、「自分や配偶者あるいはパートナーの医療・介護の費用」は47.5%となっています。
佳代子さんの場合、息子に使う数万円で直ちに家計が苦しくなるわけではありません。それでも年齢を重ねるにつれ、気になり始めたのはお金だけではなくなりました。
布団を干して2階まで運び、食材をまとめて買い、3日間いつもより多くの食事を作る。以前なら苦にならなかったことにも疲れるようになったのです。
それでも、「せっかく帰ってきたのだから」と何も言わずにいました。
そんなある日の帰省中、慎吾さんが冷蔵庫を開けました。
「ビールないの?」
「買ってないよ」
「え、俺が来るの分かってたじゃん」
その何気ない一言に、佳代子さんは黙っていられなくなりました。
「飲みたいなら、自分で買ってきたら?」
慎吾さんは、母の予想外の返事に「どうしたの、急に」と驚いたといいます。しかし、佳代子さんにとっては決して「急」ではありませんでした。
