「見放したわけじゃない」母が自分で整えていた暮らし
「そこまで言わなくてもいいだろ」
直人さんがそう返すと、悦子さんは首を振りました。
「悪い意味じゃないの。あなたを当てにしないことにしただけ」
悦子さんはこの半年で、困ったときに頼める先を自分なりに探していました。
庭木の手入れは近所の業者へ依頼し、粗大ごみを運べないときは自治体のルールを確認して収集サービスを利用。高い場所の電球交換など、日常生活で困ることについては、地域包括支援センターにも相談しました。
地域包括支援センターは、高齢者の総合相談や権利擁護、介護予防のための支援などを行う機関として市町村が設置しています。厚生労働省によると、2025年4月末時点で全国に5,487ヵ所あり、支所を含めると7,374ヵ所となっています。
悦子さんは要介護認定を受けておらず、食事や洗濯、買い物などは自分でできます。それでも、「一人でできること」と「お金を払って誰かに頼むこと」を分けるようになりました。
「昔なら、こんなことにお金を使うのはもったいないと思ってた。でも、あなたが来るまで何週間も待つくらいなら、必要なときに頼んだほうがいいと思ったの」
直人さんがショックだったのは、母に責められたからではありません。自分では「いざというときには頼られる息子」でいるつもりだったのに、母はすでに、自分がいなくても暮らしを回せる方法を探していたからです。
「俺、何もしてなかったんだな」
「そんなことないわよ。たまに顔を見せてくれれば、それでいいの」
その後、直人さんは毎月必ず帰省すると約束することはしませんでした。仕事や家庭の事情で守れなくなる可能性があるからです。
代わりに、頼まれたときに行けないのであれば曖昧に「今度やる」と答えず、「今月は難しい」と伝えるようにしました。急ぎの用事なら、母と一緒に利用できるサービスを探します。
高齢の親を支える方法は、子どもがすべてを引き受けることだけではありません。離れて暮らしていれば、仕事や子育てとの両立が難しいこともあります。
大切なのは、親が実際に何に困っているのか、家族ができない部分を誰に頼めるのかを早めに確認しておくことです。親が一人で暮らし続けるためには、家族だけに頼らない支え方を用意しておくことも必要になるでしょう。
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