【社労士が警告】「要支援だから」は通用しない…企業の重大な法律違反
ユキさんの事例は、決して珍しい話ではありません。企業側に「介護離職を防ごう」という意識が欠如している場合、このような悲劇が起こります。
ここからは社会保険労務士の視点から、今回の会社の対応に潜む「違法性」と、企業が背負うことになる「重大なリスク」について解説します。
1.介護認定(要支援)を軽視する法律への理解不足
人事部長は「要支援だから(大したことはない)」という発言をしていますが、これは育児・介護休業法に対する重大な理解不足です。育児・介護休業法において、介護休業や各種支援制度の対象となる「要介護状態」とは、「負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」と定義されています。
これは必ずしも介護保険制度の「要介護2以上」や「寝たきり」である必要はありません。要支援であっても、通院の付き添いや日常生活の買い物など、継続的なサポート(常時介護)が必要な状態であれば、法律上の「対象家族」に該当する可能性が十分にあります。
企業が勝手に「要支援だから制度は使わせない」と判断することは、法の趣旨に反する違法な取り扱いとなる可能性が高いのです。
2.「所定労働時間等の措置」義務の違反
育児・介護休業法第23条第3項では、要介護状態にある対象家族を介護する労働者に関して、企業は「所定労働時間の短縮等の措置」を講じなければならないと定めています。
具体的には以下のいずれかの措置を選択して設ける義務があります。
・短時間勤務制度
・フレックスタイム制
・始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ
・労働者が利用する介護サービスの費用の助成
ユキさんは「休日の固定(就業時間の配慮)」を求めています。会社には業務の都合(人事権の行使)があるとはいえ、労働者が介護と仕事を両立できるよう配慮する義務が法律上課せられています。代替案の提示や十分な協議もせずに「わがままは許さない」と一方的に制度利用を却下することは、育児・介護休業法違反に問われる可能性が高い行為です。
3.人事部長の発言は「ケアハラスメント(ケアハラ)」に該当
「公共交通機関で行きなさい」「会社に迷惑をかけるのは筋違い」といった人事部長の発言は、典型的な「ケアハラスメント」です。
育児・介護休業法では、介護休業や介護に関する制度の利用を申し出たこと、または利用したことを理由とする不利益取扱いの禁止(第16条等)が定められています。さらに、職場における上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を講じる義務も企業にはあります。
個人の切実な事情を「わがまま」と一蹴し、実現困難な方法を強要して精神的苦痛を与える行為は、職場環境配慮義務違反(安全配慮義務違反)であり、パワハラとしても認定される違法行為です。
4.「第三者には会わない」という対応
夫であるイチロウさんからの面談申し出に対し「第三者には会わない」と断った会社の対応についてですが、法的に「配偶者と面談しなければならない」という直接的な義務が企業にあるわけではありません。しかし、従業員本人が正当な権利(介護支援制度の利用)を主張しているにもかかわらず、それを不当に却下し、追い詰めた結果として家族が介入せざるを得なくなったという経緯があります。
このような状況で「部外者」として一切耳を貸さない態度は、企業としての苦情処理機能が完全に欠如していることを自ら証明しているようなものです。労働トラブルをさらにこじらせ、法的紛争へと発展させる最悪の初動対応と言えます。
