真夏の草むしりで夫が口にした「あと何年できるかな」
「もう今日はやめたら? 暑すぎるよ」
昨年8月の朝、恵子さん(仮名・73歳)が庭を見ると、夫の隆夫さん(仮名・74歳)が汗だくになって草を抜いていました。
夫婦が暮らしていたのは、30年ほど前に購入した庭付きの戸建てです。子ども2人はすでに独立。夫婦の年金は合わせて月約35万円、預貯金は約4,500万円あり、住宅ローンも完済しています。
庭は決して広大ではありません。それでも夏になれば雑草が伸び、植木の剪定も必要です。以前は隆夫さんが休日に手入れをし、恵子さんも花を育てていました。
ところが、70代に入ると状況が変わりました。
「草むしりって、しゃがんだままだから結構きついんですよ。真夏は朝早く始めても暑いですしね」
業者に頼んだこともあります。ただ、庭以外にも気になることが増えていました。
2階にある寝室への階段、冬場の風呂場の寒さ、雨戸の開け閉め。築年数が経ち、外壁や屋根の修繕についても考えなければなりません。
その日、隆夫さんは作業を終えて家に入ると、「これ、あと何年できるかな」とつぶやきました。それをきっかけに、夫婦は住み替えについて具体的に話すようになります。
恵子さんが希望したのは、スーパーや病院へ歩いて行けること。隆夫さんは、「車を手放した後も困らない場所」を条件にしました。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、住宅・居住環境について「最も重要」と「次に重要」を合わせると、「日常の買物などの利便」が40.3%で最も高く、「医療・福祉・介護施設の利便」も27.1%でした。また、65歳以上の夫婦世帯が住み替えで居住環境について重視する点でも、「日常の買物などの利便」が42%で最も高くなっています。高齢期の住まい選びでは、日々の生活を無理なく続けられる環境も重要な条件になっています。
夫婦が選んだのは、駅から徒歩5分ほどの中古タワーマンションでした。
戸建てを売却し、その資金に預貯金の一部を加えて購入。管理費と修繕積立金を合わせて毎月約4万円かかります。
「毎月4万円は小さくありません。でも、戸建ても修繕や庭の手入れにお金がかからないわけではない。私たちは、今後の管理を自分たちだけで抱えなくていいほうを選びました」
こうして夫婦は、30年以上暮らした家を離れました。
